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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.75
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2017  75
よもやま話
思春期・若年成人がん患者さんに寄り添う
−国立がん研究センター中央病院 AYAサポートチームの取り組み−
聖路加国際大学 公衆衛生大学院
北野 敦子
東北大学大学院教育学研究科 人間発達臨床科学講座 臨床心理学分野
吉田 沙蘭
 10代後半から30代にかけての思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult: AYA)世代のがんは、全がん罹患者数に対する割合は低いもののその他の世代と比べ治療開発の遅れや、心理社会的支援体制の不足が問題となっている。その背景として疾患自体の希少性やAYA世代という子どもと大人のはざま世代が抱える特有の心理的・社会的不安定さがあげられる。2015年に発表されたがん対策加速化プランの中でも、AYA世代がん患者への医療や診療実態の解明が対策として掲げられおり、現在公的研究費を用いてその支援体制の構築が進められている。
 国立がん研究センター中央病院 AYAサポートチームはAYA世代がん患者の診療に携わっていた現場のスタッフが有志で集まった多職種チームである。私自身は2017年3月まで同院乳腺・腫瘍内科にてがん専門修練医(チーフレジデント)として勤務し、幸いにもAYAサポートチームの立ち上げに関わることができた。本稿では、チームの立ち上げまでの経緯、具体的な活動内容、チーム運営で直面した困難、今後の展望について記す。
 国立がん研究センターでは2014年に希少がんセンターが開設し電話相談事業(ホットライン)が始まったことで、全国から多くの希少がん患者(肉腫、胚細胞腫瘍、その他の稀ながん)が集まるようになった。私の所属する乳腺・腫瘍内科は、それらの希少がん診療も担当しており、希少がんセンターの開設と同時に多くの若年発症の希少がん患者が受診するようになった。希少がんの治療法はその他のメジャーがんと違い、いわゆるエビデンスレベルの高い方法が少なく、参考となる医学論文も限られている。しかしスタッフ一同、「ここが最後の砦だと」いう責任感に突き動かされ、上級医からレジデント、薬剤師までが一丸となり文献検索、科内のディスカッションを行い、日々訪れる希少がん患者に対し最適な治療提案をする努力をしていた。
 しかし、そんな中で1つの印象的なエピソードが起こった。
 20代の希少がん患者の男性、すでに効果が期待される抗がん剤への反応が得られず、その日、医療者チームとこのまま緩和ケアに専念するか、最後にもう1剤だけ試すかどうかの話し合いを行った。その日から、彼の様子は一変してしまった。どちらかというと冷静で優等生タイプの彼が、親に対し攻撃的な発言をしたり、自殺をほのめかしたり、鏡の前に立ちすくみ30分以上動けなくなったりと、いわゆる解離反応が出たのだ。おそらくその対話のずっと前から、彼の心理状態は例えるなら、溢れる寸前まで水が注がれたコップのような状態だったのだろう。それにも関わらず、私たち医療者チームは、そのコップの水を汲み出すことをせず、溢れそうになっていることに気づきもせず、がん治療という名の水を注ぎ続けていたのだ。それには「ここが最後の砦だと」という私たちのプロフェッショナリズムが投影されていたのかもしれない。しかし、激変した彼の様子を目の当たりにし、どうしてもっと早く彼の心理に寄り添えなかったのか、なぜ彼が大切にしていた学校や社会とのつながりにもっと配慮できなかったのだろうと、深く反省すると同時に、AYA世代患者さんへの心理社会的支援の必要性、そしてそれを担当する多職種チームの必要性に気がついた。
 そこで、医師、薬剤師、看護師、臨床心理士、管理栄養士、プレイセラピストなど、AYA世代がん患者さんの心理社会的支援をやりたいとういう有志らが集まり、現場に即した形での支援のあり方についてワークショップを行った。
 これらの話し合いを経て、2015年10月より「自称AYAサポートチーム」として乳腺・腫瘍内科のAYA世代がん患者(主に入院患者)を対象として活動を開始した。「自称」としたのは、緩和ケアチームのように病院として公式に認められたチームではなく、あくまで任意チームだからだ。
 AYAサポートチームの活動は大きく3つある。1つ目は病棟看護師によるチェックリストの実施と評価、2つ目がその評価を元としたAYAサポートチーム内の専門職の介入、そして3つ目が本人および親に対する精神腫瘍科医・臨床心理士による詳細なヒアリングだ。
 当院の16A病棟ではAYA世代がん患者さんに対し、入院毎に身体的、精神的、社会的困難事項を聞き出すためのチェックリストを配布し、それを元に、看護師がどのような支援が必要かの評価を行う。チェックリストの情報は毎週行われているAYAサポートチームのカンファレンスで全メンバーで共有し、その患者に対しどの専門職が介入するのが適切かを話し合い、関わりのコアとなるメンバーの選定を行う。またほぼ全員の患者および親と、精神腫瘍科医または臨床心理士が話し合いを持ち、生育歴、家庭環境、親の病気に対する理解度、認識の程度などを情報収集し、こちらもカンファレンスを通して全員で共有する【図1】。このような地道な活動の介もあり、2016年9月から病院公式事業として「AYAひろば」というAYA世代がん患者さんを対象とした院内サロンの開設が実現できた【図2】。
 しかしながら大病院特有の組織の壁の中で、このような多職種チームを運営してくことは難しい側面もある。1つの例として、私たちの場合は公式チームでなく、あくまで任意チームであることから、AYAサポートチームのカンファレンスの際はそれぞれの職種が自身の業務の手を止めて参加するわけで、それに対し賛否両論が分かれてしまう。カンファレンスに参加したいけど、業務を抜け出せずに参加できない、しかしその人が参加しないとカンファレンスが有機的に機能しないというジレンマに陥るのである。
 海外の有名病院ではこのような多職種で構成されたAYAサポートチームを病院として正式に作り、患者支援事業の一貫として取り組んでいるところもある【図3】。個人的にはAYA世代がん患者さんを診療するのであれば、それに特化した心理社会的サポートチームの存在がなければ、彼らのニーズに対し包括的に応じることはできないと考える。ぜひ、いつかは「自称」という頭文字が外れるよう、国立がん研究センター中央病院 AYAサポートチームの進化に期待し、この活動の輪が広がることを祈願したい。
 最後に、AYAサポートチームの立ち上げにゼロから協力し、支えてきててくれた大切な仲間たちに最大級の感謝の意を表し、よもやま話を終わりたいと思う【図4】。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

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