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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
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オピオイド
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オピオイドによる副作用と対策−消化器系の副作用と対策
 モルヒネをはじめとするオピオイドによる消化器系の主要な副作用は、嘔気・嘔吐と便秘である。
1. 嘔気・嘔吐
  • 嘔気・嘔吐は、オピオイドがCTZ に豊富に発現しているμ受容体を刺激することにより起こる。活性化されたμ受容体がこの部位でのドパミン1遊離を引き起こし、ドパミンD2受容体2が活性化され、その結果嘔吐中枢(vomiting center;VC)が刺激されることによる。また、前庭器に発現しているμ受容体を刺激することによりヒスタミン遊離が起き、遊離されたヒスタミンがCTZおよびVCを刺激することでも起こる。さらには、消化管において、消化管蠕動運動が抑制され胃内容物の停滞が起こることにより、求心性にシグナルが伝わりCTZおよびVCが刺激されることでも起こる(図2)。
  • 嘔気・嘔吐はオピオイドの投与初期にしばしばみられる副作用である。
  • 通常はオピオイド投与初期、あるいは増量時に起こることが多く、数日以内に耐性3を生じ、症状が治まってくることが多い。
  • 患者にとって嘔気・嘔吐は最も不快な症状の一つであり、服薬アドヒアランス4を損なうことにつながることも多いため、積極的な対策が必要である。
策](表6) (副作用対策はP150,Ⅲ-2-1 嘔気・嘔吐の項参照)
  • オピオイドによるCTZ部位でのμ受容体刺激はドパミン遊離を促し、ドパミンD2受容体を介して嘔吐中枢を刺激するため、抗ドパミン作用をもつ薬物(ハロペリドール、プロクロルペラジンなど)が制吐に用いられる。ヒスタミン遊離を介しても嘔気・嘔吐を起こすため、嘔気・嘔吐が体動時にふらつき感を伴って起こる場合には、抗ヒスタミン薬の投与を行う。胃内容物貯留・腸管運動抑制が原因となって嘔気・嘔吐が起こる場合には、消化管運動亢進作用をもつメトクロプラミド、ドンペリドンなどを投与する。
  • オピオイドローテーションを行うことでも軽快することがある。オピオイド内用剤から注射剤に投与経路を変えることでも軽快することがある。
  • 標準的制吐治療が無効の場合は、非定型抗精神病薬5(オランザピン、リスペリドンなど)の投与で軽快することがある。
1:ドパミン
脳内に存在する神経伝達物質の一つで、快の感情、運動調節、ホルモン調節、学習などにかかわる。アドレナリン・ノルアドレナリンの前駆体。
2:ドパミンD2受容体
現在、5つが知られているドパミンの受容体の一つ。脳内の嘔吐中枢や、胃腸の運動をコントロールする神経(副交感神経)に存在する。単にD2受容体とも呼ばれる。
3:耐性
初期に投与されていた薬物の用量で得られていた薬理学的効果が時間経過とともに減退し、同じ効果を得るためにより多くの用量が必要になる、身体の薬物に対する生理的順応状態である。P58参照。
4:アドヒアランス
患者が主体となって治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること。従来使われてきたコンプライアンス(遵守)よりも医療の主体を患者側に置いた考え方。
5:非定型抗精神病薬
1980年代後半より導入された新規抗精神病薬。従来の抗精神病薬と比較して、ドパミンD2受容体以外の神経伝達物質受容体に対しても選択的に作用し、錐体外路症状を中心とした中枢神経に対する副作用が少ない。
(参考)定型抗精神病薬ドパミンD2 受容体に対して高い親和性をもつ拮抗薬であり、ハロペリドールやクロルプロマジンなどに代表される抗精神病薬。
図2 オピオイドによる嘔吐の機序
図
2. 便
  • 便秘はオピオイドを投与された患者に高頻度に起こり、耐性形成はほとんど起こらないため下剤を継続的に投与するなどの対策が必要になる。
  • オピオイドは、各種臓器からの消化酵素の分泌を抑制し、消化管の蠕動運動も抑制するため、食物消化が遅滞し、腸管での食物通過時間は延長する。さらに食物が大腸で長時間とどまるなかで、水分吸収は一段と進むため便は固くなる結果、便秘が起こる。また、肛門括約筋の緊張も高まるため、排便しにくい状況となる。
策](表7) (副作用対策はP158,Ⅲ-2-2 便秘の項参照)
  • オピオイド処方時には便秘が高頻度に認められることを想定し、オピオイド処方時には下剤を投与するなどの予防的対応が必要となる。
  • 患者の便の形状、排便回数、食事の状態などをきめ細かくチェックしながら、個人に合った下剤の投与を行う。
  • 下剤として、便をやわらかくする浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース)、腸蠕動運動を促進させる大腸刺激性下剤(ピコスルファート、センノシド)が有効である。
  • 症状改善には、可能なら水分摂取、運動、食物繊維の摂取も有用である。
  • 状態に応じて浣腸や摘便なども行う。
  • オピオイド製剤をモルヒネやオキシコドンからフェンタニル製剤に変更することで軽快することがある。
(北條美能留、上園保仁)
表6 オピオイドによる嘔気・嘔吐の予防と治療薬一覧
主な作用部位 薬剤名 1回投与量
CTZ
(ドパミン受容体拮抗薬)
プロクロルペラジン 5mg
5mg
ハロペリドール 0.75mg
2.5〜10mg
クロルプロマジン 12.5mg
5mg
前庭器
(抗ヒスタミン薬)
ジフェンヒドラミン/ジプロフィリン 40mg/26mg
2.5〜5mg
マレイン酸クロルフェニラミン 2mg
5mg
消化管
(消化管運動亢進薬)
メトクロプラミド 5〜10mg
10mg
ドンペリドン 5〜10mg
坐剤 60mg
CTZ・VCなど
(非定型抗精神病薬)
オランザピン 2.5mg
リスペリドン 0.5mg
0.5mg
※トラベルミン®として
表7 オピオイドの副作用による便秘の治療薬一覧
薬剤名 1日用法・用量
浸透圧性下剤 塩類下剤 酸化マグネシウム 1,000〜2,000mg(分2〜3回)
  糖類下剤 ラクツロース 10〜60mL(分2〜3回)
大腸刺激性下剤 センナ 1〜3g(分2〜3回)
センノシド 12〜48mg(就寝前または起床時と就寝前)
ピコスルファートナトリウム 5〜30滴/2〜6 錠(分2〜3回)
ビサコジル 1日1〜2回(頓用)
その他 浣腸 グリセリン 10〜150mL/回

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