
- 2章 背景知識
3 WHO方式がん疼痛治療法
- 3
- 鎮痛薬の使用法
痛みの治療は薬物療法と非薬物療法の組み合わせが必要となるが、鎮痛薬(表2)の使用が主役となる。WHO方式がん疼痛治療法における「鎮痛薬の使用法」は、治療にあたって守るべき「鎮痛薬使用の5原則」(表3)と、痛みの強さによる鎮痛薬の選択ならびに鎮痛薬の段階的な使用法を示した「三段階除痛ラダー」(図1)から成り立っている。本項では以下に「鎮痛薬の使用法」について述べる。
なおWHO方式がん疼痛治療法とは、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの使用に加え、鎮痛補助薬*、副作用対策、心理社会的支援などを包括的に用いた鎮痛法であり、薬物に抵抗性の痛みには、神経ブロックなどの薬物以外の鎮痛法を三段階除痛ラダーの適用と並行して検討すべきであるとしている。
なおWHO方式がん疼痛治療法とは、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの使用に加え、鎮痛補助薬*、副作用対策、心理社会的支援などを包括的に用いた鎮痛法であり、薬物に抵抗性の痛みには、神経ブロックなどの薬物以外の鎮痛法を三段階除痛ラダーの適用と並行して検討すべきであるとしている。
*:鎮痛補助薬
主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択される。P66参照。
主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択される。P66参照。
表2 WHO方式がん疼痛治療法の鎮痛薬リスト
薬剤群 | 代表薬 | 代替薬 |
---|---|---|
非オピオイド鎮痛薬 | アスピリン アセトアミノフェン イブプロフェン インドメタシン |
コリン・マグネシウム・トリサルチレートa) ジフルニサルa) ナプロキセン ジクロフェナク フルルビプロフェン※1 |
弱オピオイド (軽度から中等度の強さの痛みに用いる) |
コデイン | デキストロプロポキシフェンa) ジヒドロコデイン アヘン末 トラマドールb) |
強オピオイド (中等度から高度の強さの痛みに用いる) |
モルヒネ | メサドンa) ヒドロモルフォンa) オキシコドン レボルファノールa) ペチジンc) ブプレノルフィンa) フェンタニル※2 |
a:日本では入手できない薬剤。
b:日本では注射剤のみ入手可能。
c: がん疼痛での継続的な使用(反復投与)は推奨されていないが、他のオピオイドが入手できない国があるため、表に
残された薬。
d:経口投与で著しく効果が減弱する薬。
※1: 原著では、基本薬リストにあげられていないが、非オピオイド鎮痛薬の注射剤としてはフルルビプロフェンの注射剤
(ロピオン®)がある。
※2:( 強オピオイド)フェンタニルは、経皮吸収型製剤(貼付剤)と注射剤が使用できる。当時はフェンタニル貼付剤
を使える国が限られていたことから、原著では基本薬リストに挙げずに文中での記載にとどめている。
b:日本では注射剤のみ入手可能。
c: がん疼痛での継続的な使用(反復投与)は推奨されていないが、他のオピオイドが入手できない国があるため、表に
残された薬。
d:経口投与で著しく効果が減弱する薬。
※1: 原著では、基本薬リストにあげられていないが、非オピオイド鎮痛薬の注射剤としてはフルルビプロフェンの注射剤
(ロピオン®)がある。
※2:( 強オピオイド)フェンタニルは、経皮吸収型製剤(貼付剤)と注射剤が使用できる。当時はフェンタニル貼付剤
を使える国が限られていたことから、原著では基本薬リストに挙げずに文中での記載にとどめている。
表3 鎮痛薬使用の5原則
- ● 経口的に
- (by mouth)
- ● 時刻を決めて規則正しく
- (by the clock)
- ● 除痛ラダーにそって効力の順に
- (by the ladder)
- ● 患者ごとの個別的な量で
- (for the individual)
- ● その上で細かい配慮を
- (with attention to detail)
図1 三段階除痛ラダー

1. 経口的に(by mouth)
がんの痛みに使用する鎮痛薬は、簡便で、用量調節が容易で、安定した血中濃度が得られる経口投与とすることが最も望ましい。しかし、嘔気や嘔吐、嚥下困難、消化管閉塞などのみられる患者には、直腸内投与(坐剤)、持続皮下注、持続静注、経皮投与(貼付剤)などを検討する必要がある。
2. 時刻を決めて規則正しく(by the clock)
痛みが持続性である時には、時刻を決めた一定の使用間隔で投与する。通常、がん疼痛は持続的であり、鎮痛薬の血中濃度が低下すると再び痛みが生じてくる。痛みが出てから鎮痛薬を投与する頓用方式は行うべきではない。
加えて、突出痛に対しては、レスキュー・ドーズが必要になる。このため、鎮痛薬の定期投与と同時にレスキュー・ドーズを設定し、患者に使用を促すことも重要である。
加えて、突出痛に対しては、レスキュー・ドーズが必要になる。このため、鎮痛薬の定期投与と同時にレスキュー・ドーズを設定し、患者に使用を促すことも重要である。
3. 除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)
鎮痛薬は、図1に示した「WHO三段階除痛ラダー」が示すところに従って選択する。ある鎮痛薬を増量しても効果が不十分な場合は、効果が一段強い鎮痛薬に切り替える。重要なことは、患者の予測される生命予後の長短にかかわらず、痛みの程度に応じて躊躇せずに必要な鎮痛薬を選択することである。またオピオイド使用時も、非オピオイド鎮痛薬を併用すること、さらに必要に応じて鎮痛補助薬を併用することが重要である。
- ①
- 軽度の痛みには、第一段階の非オピオイド鎮痛薬を使用する。これらの薬剤は、副作用と天井効果*により標準投与量以上の増量は基本的には行わない。なお、痛みの種類によっては、第一段階から鎮痛補助薬を併用する。
- ②
- 非オピオイド鎮痛薬が十分な効果を上げない時には、「軽度から中等度の強さの痛み」に用いるオピオイドを追加する。この段階でも必要により鎮痛補助薬の使用を検討する。
- ③
- 第二段階で痛みの緩和が十分でない場合は、第三段階の薬剤に変更する。非オピオイド鎮痛薬は可能な限り併用する。それぞれのオピオイドの特性を理解したうえで薬剤の選択を行うことが重要であり、基本的には1つの薬剤を選択する。モルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどの強オピオイドは、増量すれば、その分だけ鎮痛効果が高まる。第三段階でも必要により鎮痛補助薬の使用を検討する。
*:天井効果(ceiling effect)
ある程度の量以上、投与量を増やしても鎮痛効果が頭打ちになること。有効限界ともいう。
ある程度の量以上、投与量を増やしても鎮痛効果が頭打ちになること。有効限界ともいう。
4. 患者ごとの個別的な量で(for the individual)
個々の患者の鎮痛薬の適量を求めるには効果判定を繰り返しつつ、調整していく必要がある。その際、非オピオイド鎮痛薬や弱オピオイドであるコデインには天井効果があるとされる一方で、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどの強オピオイドには標準投与量というものがないことを理解しておくことが重要である。適切なオピオイドの投与量とは、その量でその痛みが消え、眠気などの副作用が問題とならない量である。増量ごとに痛みが緩和すれば、その鎮痛薬を増量することで緩和できる可能性が大きい。レスキュー・ドーズを使用しながら、十分な緩和が得られる定期投与量(1日定期投与量とレスキュー・ドーズ1回量)を決定する。
5. その上で細かい配慮を(with attention to detail)
痛みの原因と鎮痛薬の作用機序についての情報を患者に十分に説明し協力を求める。時刻を決めて規則正しく鎮痛薬を用いることの大切さの説明と、予想される副作用と予防策についての説明はあらかじめ行われるべきである。
また、治療による患者の痛みの変化を観察し続けていくことが大切である。痛みが変化したり、異なる原因の痛みが出現してくる場合には、再度評価を行う。その上で、効果と副作用の評価と判定を頻回に行い、適宜、適切な鎮痛薬への変更や鎮痛補助薬の追加を考慮する
ことが重要である。
がんの病変の治療(外科治療や放射線治療、化学療法など)によって痛みの原因病変が消失あるいは縮小した場合は、オピオイドの漸減を行う。神経ブロックなどにより痛みが急激に弱まった時は、投与量の急激な減量(もとの量の25%程度に減量)が必要な場合もある。その際には突然の中止は避け、離脱症候群*に注意したうえでの計画的な減量が必要である。
その他、患者の病態の把握は欠かすことができない。肝機能障害、腎機能障害のある場合は特に注意が必要である。高齢者はオピオイドの薬物動態が変化しているため少量からの開始が基本である。加えて、不安・抑うつなどの患者の精神状態に配慮していくことは、円滑な疼痛治療を行ううえで非常に重要である。
また、治療による患者の痛みの変化を観察し続けていくことが大切である。痛みが変化したり、異なる原因の痛みが出現してくる場合には、再度評価を行う。その上で、効果と副作用の評価と判定を頻回に行い、適宜、適切な鎮痛薬への変更や鎮痛補助薬の追加を考慮する
ことが重要である。
がんの病変の治療(外科治療や放射線治療、化学療法など)によって痛みの原因病変が消失あるいは縮小した場合は、オピオイドの漸減を行う。神経ブロックなどにより痛みが急激に弱まった時は、投与量の急激な減量(もとの量の25%程度に減量)が必要な場合もある。その際には突然の中止は避け、離脱症候群*に注意したうえでの計画的な減量が必要である。
その他、患者の病態の把握は欠かすことができない。肝機能障害、腎機能障害のある場合は特に注意が必要である。高齢者はオピオイドの薬物動態が変化しているため少量からの開始が基本である。加えて、不安・抑うつなどの患者の精神状態に配慮していくことは、円滑な疼痛治療を行ううえで非常に重要である。
*:離脱症候/離脱症候群
臨床では薬物の突然の休薬による身体症状を離脱症候群(withdrawal syndrome)と表現することが一般的である。退薬症状、退薬徴候ともいわれるが、本ガイドラインにおいては、ガイドラインを使用する医療従事者の混乱を避けるため、本文を通して離脱症候/離脱症候群に統一して使用する。
臨床では薬物の突然の休薬による身体症状を離脱症候群(withdrawal syndrome)と表現することが一般的である。退薬症状、退薬徴候ともいわれるが、本ガイドラインにおいては、ガイドラインを使用する医療従事者の混乱を避けるため、本文を通して離脱症候/離脱症候群に統一して使用する。