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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.80
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2018  80
よもやま話
味噌汁回診
岐北厚生病院 緩和ケアセンター  西村 幸祐
 当緩和ケア病棟では月に1度、『味噌汁回診』なるものを行っています。単に患者さんとご家族に味噌汁を配って召し上がっていただく『“なんちゃって”回診』です。ただその味噌汁は、出来立てであります。アツアツなのです。
 在宅でお過ごしの患者さんであれば、そんなことは当たり前でしょう。日常でしょう。だからこそ“在宅医療・在宅ケアの補完“に過ぎないと言われもするホスピス・緩和ケア病棟としては、ちょっとでも自宅に近づけないものかと思って、はかない抵抗ですが続けています。理想はどうあれ、現実的に目の前にいらっしゃる患者さんとご家族は、この緩和ケア病棟というまあ、”非日常“の施設内で「今」を生きていらっしゃいますので、ささやかでも我々スタッフは頑張らないといけません。
 前の日の昼休みに、近所のスーパーで買い出しをします。旬のお野菜が具の決め手であります。今を味わっていただきたいと願います。そして夜、勤務後から“出し”取りを開始します。ファミリーキッチンをお借りしておよそ4〜5リットルのお水に煮干しの頭と腹を外して入れ、冷蔵庫で一晩つけておきます。飛魚(あご)を使う時もあります。
 当日の朝は、その“出し”の中に厚削りのカツオ節を混ぜ、火にかけます。味噌汁回診は、昼に行っています。6年前に始めたころ、朝にやろうとしたら、看護師さんの負担がやたらに大きくなってしまいましたので、以後お昼に行うことにしたのです。
 前日に購入しておいた具をボランティアさんが上手に刻んだり下ごしらえしたりして下さいます。食べやすくするにはどうしたらいいか、でもほんの少しでも歯ごたえを感じられないか、と毎回あれこれ考えて下さいます。
 このころには、病棟中が御出汁のいい匂いでいっぱいになります。「今日は味噌汁なんですね。楽しみにしています」と、月間行事表で確認した患者さんやご家族から期待のお声掛けをいただくようになりました。いつの間にか、当病棟の名物行事になって、スタッフも『宣伝』をしてくれていますので。
 さあ、いよいよ最終段階の味噌投入のときが来ました。味噌は毎回産地の異なるものを使います。ソムリエはワインの目利きですが、「味噌ムリエ」もあってほしいと思います(もし検定試験があれば勉強し、できれば称号を狙いたいと思います)。それほど味噌の種類は多いのです。岐阜県内でもそれはもうたくさんの種類があります。患者さんはほとんどが、県内の方ですが、よく話を伺うと、岐阜に嫁いできた、幼いころは九州だった、いつも新潟から取り寄せている。赤だしとうちは決めている、など、毎回その選択は困難を極めました。いったいどなたを基準で選べばいいのか…。
 しかし、ここ数年は、もうインフォームド・コンセントも、アドバンス・ケア・プランニングもへったくれもありません!私(筆者)がこれで行く、といった味噌を使うことにしてしまっています!多様性を確保するために、旅行・学会・研究会のときはまずは地元のスーパーの味噌コーナーをのぞくことにしています。そうして仕入れてくることもあります。
 複数のスタッフの味見を経て、いよいよ回診スタートです。しかし、20人を超える患者さんとご家族にいかにアツアツを届けるか、まさに時間との勝負です。また、給食も来てしまいますので、それとのマリアージュのタイミングを合わせなければならないのです。
 『回診』が“なんちゃって”であるのは、このためです。診察も、傾聴もほとんどしません。ねぎとミョウガとワカメの好み(これらはオプション)を患者さんとご家族に伺い、そのあとお椀に具をうまく混ぜ合わせて彩り豊かに整えるのは、極めて高度な技であり(笑)、一連の流れを完成させるプロセスは誠に大忙しです。患者さんがお一人いらっしゃるだけのお部屋は余裕もあって少しコミュニケーションがとれますが、どういうわけかお見舞いのご家族が5人!というときは、合計6杯のご提供になります。こうして汗だくの給仕が続きます。
 結果はどうでしょう。
 おかげさまで、「うまい!」「お〜いしいー!」と言われっぱなしで、申し訳ないですが、配るほうとしては、悪くない気分ではあります。お上手でいって下さるにしても、そのままお受けし、心から感謝申し上げてお部屋を去ります。
 最もうれしいのは、今までお水だけかろうじて飲んでいらっしゃって、もう多くは食べられないと寂しく思っていらっしゃる患者さんとそのご家族のお部屋でのことです。ご許可をいただき、ほんの少しの味噌汁をスプーンにすくい、フーフーしてお口の中に注ぎ込ませていただくのです。
 「オ・イ・シ…」
 涙が出るうれしさです。
 「いのちのスープ」であるお味噌汁。このアツアツは、当院のケアスタッフの気持ちの熱さでもあるのです、なーんてかっこよく述べて拙文を終わります。

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