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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.80
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2018  80
よもやま話
緩和ケア病棟入院料あたふた
岐北厚生病院 緩和ケアセンター  西村 幸祐

 会員の皆様はご存知の方も多いと思いますが、今年2018年の4月から、緩和ケア病棟入院料が2つに分類されました。@直近1年間の入院日数の平均が30日未満で、入院までの待機日数の平均が14日未満であること、もしくはA直近1年間の在宅(保険医療機関でない施設を含む)退院率が15%以上であること(詳細は別でご確認下さい)、のいずれかを満たす場合に、緩和ケア病棟入院料1を算定できることとなり、従来よりも報酬が増えることになりました。一方、以上の要件を満たさない場合は緩和ケア病棟入院料2の算定となり、減収となります。当病棟の場合で試算したところ、1を算定するとしないとでは1,600万円ほどの差が生じました。
 病院を挙げて、すわ、「1をとるぞ」となったわけであります。そのような気勢を上げたご施設も少なくないのではないでしょうか。
 中山間部の比較的のんびりとしたロケーションにある当院は、限界集落を含む地域を医療圏としており、介護力・施設数・マンパワーがかなり不足しています。「やっと安心する場所を見つけた。」と当病棟に転院してこられる患者さんとご家族に対して、この仕組みは見事に医療者との対立関係をもたらしましています。すなわち、「どこの病院に行っても、最初から追い出すことばかり言われる」という言葉に表されるように、医療機関からの圧力に怒りとともに困惑する患者・家族と、その“プロジェクト”を進めざるを得ないスタッフの軋轢です。大学病院や地域基幹病院ではすでにそのような苦難を患者・家族もスタッフも経験していらっしゃることでしょう。
 おかしなことですが、ケアの目的である症状緩和と暮らしの場所の提供がいったん完成すると、もうそこにはいられないということになる矛盾があります。それは目的達成が不安をもたらすという矛盾です。
 限られた医療資源をより大勢の方にできるだけ平等に使っていただくという理念は誠に正しいと思います。しかしそのような社会正義は、不安や苦しみにさいなまれている個々の患者さんとご家族一人一人にとっては素直に受け入れることができづらい、誤解をあえて恐れずに言えば、「どうだっていいこと」なのではないでしょうか。
 曲がりなりにもホスピス運動の教えを受けてきた比較的古い世代には、その人その家族らしく安心して過ごせる療養場所を作っていきたい、という思いがありました。在宅医療を望む方には実現のためのそれなりの努力をしてきました。一方で、病棟の運営が成り立たなくてはなりませんから、無理には退院を勧めることはなく、ひいてはのんびりと緩和ケア病棟・ホスピスで過ごす方もいらっしゃいました。これからもそのような運営を否定されているわけではありませんが、「もっと収益が上がる」というニンジンをチラチラ見せられれば、施設管理側は「何とかならないか」と思ってしまうのも人情でしょう。
 先月は関係者の努力が実り、思いのほか退院の方が多くなりました。しかし、空床が続いてしまい、逆に冷や冷やしました。
 いったい私たちは何をしているのだろう、と思いました。
 ホスピスが医療にとり込まれ、緩和ケア病棟なるがん病棟に変容してしまった、というホスピス運動の先駆的非医療関係者がそういっていたことを思い出します。
 皆様はどのようにお考えでしょうか。

 あたふたと退院調整の言い訳づくりに追われた昼間を思い、深夜の風呂桶の中で「時代は変わるんだな」と独り言ちています。最近、『嫌われる勇気』という本を買いました。

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