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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.80
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2018  80
Journal Club
中等度のがん性疼痛に対する長期の低用量モルヒネは、
トラマドールに比べ臨床的に意味がある除痛を得る
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部
佐藤 淳也
Zheng RJ, Fu Y, Zhu J, Xu JP, Xiang QF, Chen L, Zhong H, Li JY, Yu CH.Long-term low-dose morphine for patients with moderate cancer pain is predominant factor effecting clinically meaningful pain reduction.Support Care Cancer. 2018 May 31. doi: 10.1007/s00520-018-4282-2. [Epub ahead of print]

【目的】
 WHO方式の三段階除痛ラダーに準じた中等度のがん性疼痛の除痛には、トラマドール塩酸塩の使用が推奨されている。今回の研究は、中等度のがん性疼痛を有する患者に対して、トラマドール塩酸塩と比較的低用量のモルヒネを経口にて長期間使用した場合の有効性および安全性を後方視的に比較調査した。
【方法】
 対象は、著者らの所属する大学病院において、Numerical Rating Scale 4-6の中等度のがん性疼痛を有する353名を抽出した。トラマドール塩酸塩の開始用量は、200mg/日とし、試験期間中の最大投与量は400mg/日までとした。モルヒネは、30mg/日から開始し、3日間で用量設定し、最大投与量は60mg/日までとした。主要評価項目は、臨床的に意味のある除痛率(CMPR;ベースラインの疼痛強度から30%以上の除痛)とし、27週間評価した。
【結果】
 トラマドール塩酸塩投与患者(221名)およびモルヒネ投与患者(132名)の1日平均投与量は、各々310mgおよび47mgであった。また、9,18および27週時点のCMPRは、各々77.3%、44.8%、18.1%および84.8%、68.2%、53.8%であり、モルヒネ投与患者において有意に高かった(P値の記載なし)。評価期間中に、トラマドール塩酸塩投与患者の81.9%は、強オピオイドにスイッチングされていたが、モルヒネ投与患者におけるその頻度は、46.2%にすぎなかった。副作用は、主に便秘が観察された。モルヒネ投与患者における便秘の頻度は、トラマドール塩酸塩に比べ有意に低かった(34.1% vs 46.2%、p=0.026)。その他の副作用については、統計的な有意差を認めなかった。
【結論】
 中等度のがん性疼痛を有する患者に対して、比較的低用量のモルヒネは、トラマドール塩酸塩に比べ長期間有効かつ安全である。
【コメント】
 トラマドール塩酸塩は、WHO方式の三段階除痛ラダーにおける中等度のがん性疼痛に対して使用が推奨される薬剤(正しくは、代表薬であるコデインの代替薬)である。臨床現場において、トラマドール塩酸塩は、保険適用上非麻薬として扱われ、NSAIDsの効果不良時に開始されることが多い。しかし、最終的にがん治療期間中のすべてをトラマドール塩酸塩で除痛が完結する患者は多くない。今回の研究では、中等度のがん性疼痛には60mg/日までのモルヒネの方が、トラマドール塩酸塩で除痛を継続するより安全かつ有効であり、これが除痛不良によるスイッチングが少ない点になっている。著者らは、これらの結果からWHO方式の三段階除痛ラダーへの科学的疑問を掲げている。臨床家にとって使い慣れたWHO方式の三段階除痛ラダーであるが、これに縛られず疼痛強度や経済性(論文で平均的に使用された約300mgのトラマドール塩酸塩(50mg錠×6)の薬価;385円、約50mgのモルヒネ(10mg硫酸塩徐放錠×5);1,206円)を考慮した柔軟なオピオイド選択が重要であるかもしれない。

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