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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.78
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2018  78
よもやま話
俳句の力と緩和ケア
大垣市民病院 地域医療連携部 緩和ケアセンター
がん看護専門看護師  林 ひとみ(俳号:ケセラ・せら)
 当院では、がん患者さんやそのご家族が自由に語り合える場所として、2009年6月にがんサロン「なごみ庵」を開設した。現在は、タオル帽子作り、アレンジメントフラワー教室、疾患や療養生活に関するミニ勉強会、ちぎり絵教室、臨床心理士によるマインドフルネス、俳句教室など、多様なイベントを月曜の午後に開催している。
 俳句教室が定着したのは2013年からで、俳句の講師の指導のもと、「三尺俳句教室・なごみ庵」がスタートした。「三尺俳句教室」という名称は、芭蕉が「俳諧は三尺の童にさせよ」と言ったことから、初心者向けの教室という意味があると聞いている。大垣は、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅を終えた「奥の細道むすびの地」。よって、俳句は比較的馴染み深い地域である。
 患者さんと共に参加してみたものの、私は全くの初心者。その上、日常をふと立ち止まり、生活や自然環境に目を向けるといった風情が自分には欠けていることを自覚した。暑い時期、帰宅後の楽しみといえば冷えたビール!ということで、「ストレスも汗も吹き飛ぶ生ビール」と詠むのがやっとであった。
 ところがそんな私でも、季節の変化・日常生活の些細な出来事を題材にして句を詠む楽しさを感じる様になり、「残業の疲れ癒すや虫の声」「意味もなくただただ悲しい秋の夕」なんて句を詠んでみたり。ゲリラ豪雨が多かった年の、「夕立に会ふ度増える安い傘」は、大垣市主催「奥の細道むすびの地 十六万市民投句」で特選をいただいた。とはいえ、先生方のような言葉のわびさびが利いた粋な句とはいえないが…。
 「ひたすらに咲き散る桜、潔し」
 4月のある日、風と共にいっせいに舞い散る桜を目にして、急に涙があふれてきた。病と向き合い病と共に生き切って人生を終えられた数々の患者さんの懐かしいお顔が、美しく舞い散る花びらに映り、泣けてきた。
 句を詠む時には、先ずは肩の力を抜き、素直な心と五感で言葉を探し言葉を遊ぶ。とにもかくにも「俳句」は、今では私の重要な緩和ケアになっている。
 さて、主役の患者さんやご家族の反応は如何かというと…。
 参加されている患者さんやご家族の作品は秀逸で、時にはホロリと涙腺が緩む句もある。
 「なぜ生きるどう生きるかと霙降る」
 「小寒や今夜も涙の痺れ足」
 「退院の二文字が俺の福寿草」
 この句を詠まれた患者さんは、常に「死」と向き合いながら会に参加されていた。そして、「俳句はいい。句を作っているときは、痛みも何もかも忘れ、自分を省みることができる。」とおっしゃっていた。会への参加が困難な状況でも、ベッドの上で詠んだ作品をご家族が届けて下さった。
 他の患者さん達も、俳句との出会いについて、しみじみとこう語られる。「病気や治療のことばかり考える日々は、正直気持ちが滅入ってしまう。それでも、悪戦苦闘しながら俳句を作っている時は、違う世界に心を置ける。俳句のことだけに集中していると、何とも言えない達成感や癒しがあり、自分の力で成し遂げる喜びがある。」
 これは、まさに“自己効力をもたらす緩和ケア”といえるだろう。そこで、もっと多くの方々に知っていただこうということで、皆さんの作品を年2回院内に展示させていただくようになった。ご覧になった方々から「気持ちがほっこりした。ありがとう。」「病気を抱えていても楽しみがあるっていいですね。」といった感想が届く。三尺俳句教室は、今やがんサロンの重要な催しであり、通りすがりの方々のオアシスにもなっている。
 これからも俳句の力の“優しさ”“癒し”“ユーモア”“雄大さ”“無限性”を患者さん達に楽しんでいただけることを願ってやまない。

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