Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.62
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2014  62
Current Insight
骨転移疼痛緩和剤 塩化ストロンチウム-89治療の
適正使用マニュアルの改定について
公益社団法人 日本アイソトープ協会 常務理事
(元 がん研有明病院 副院長・放射線科部長)  山下 孝
 放射性医薬品塩化ストロンチウム-89(商品名メタストロン注、以下、本剤という。)の承認要件であった市販後使用成績調査(全例調査)は2012年9月に解除され、これを受けて2013年2月に本剤の適正使用マニュアルの臨床編が大幅に改定され、本剤の特徴を生かした臨床使用ができるようになった。
 今回の適正使用マニュアル改定の要点は、@安全で有効に本剤を使用するために、骨転移の早期の段階から使用することが推奨され、骨転移治療における本剤の位置づけが末期状態から早期状態まで広がったこと、Aこれまで併用できなかった外部照射及び化学療法を相互作用に注意しながら同時併用可能となったことである。それぞれについて少し詳しく述べる。
1.有痛性骨転移の早期段階での使用の推奨
 本剤は以下のような要因で、一般に、骨転移の早期例でより効果があり、逆に末期のがん患者では除痛効果がより低く、副作用がより著明となると言われている。まず、有効性に関しては、@数個の骨転移例では、広範な骨転移例と比較して、病巣当たりのSr-89の集積率が高くなること、A組織酸素濃度が高くなるようなヘモグロビン値が高い(PS良好で栄養状態がよい)患者では、β線の酸素効果により抗腫瘍効果の増強が期待される。また、骨転移進行例では、骨転移そのものによる骨折や神経根圧迫などによる疼痛が重なり、腫瘍の縮小効果では制御しきれなくなる。一方、安全性に関しては、骨転移進行例では、腫瘍の骨髄浸潤や長期化学療法などによる骨髄抑制により、本剤投与前からすでに骨髄機能が著しく低下し、Sr-89によるわずかな骨髄抑制すら生命の危険となることがある。また、広範な骨転移では、全身正常骨へのSr-89の残存率が高くなり、骨髄抑制がより発現するおそれが危惧される。すなわち、本剤の特徴を活かして、より有効に安全に使用するためには、これまでとは異なり骨転移痛が生じた早期段階からの使用を考慮することが推奨される。
2.外部放射線照射治療との併用
 海外のガイドラインでは、骨髄抑制が著明な半身・全身照射などの広範囲の外部照射では、その実施前後4週間は、本剤の使用を控えるようになっているが、局所外部照射は併用可能とされている。しかし、これまでの添付文書ではこれらの区別なく、局所外部照射も含めて併用注意とされているため、全例調査中は放射線治療の併用ができなかった。この点、改定マニュアルでは局所外部照射中であっても問題となる骨髄抑制がなければ、併用が可能とされているので、適応範囲が広がった。
3.化学療法との併用
 本剤の骨髄抑制作用による血小板数や白血球数の減少は緩やかで、一般に投与6〜10週間後に最低値となり、投与前に対し2〜3割程度低下する。しかも、抗がん化学療法併用の骨髄抑制の増強は、両者の和として予測可能であると言われている。この特徴を理解して改定マニュアルでは、「本剤と抗悪性腫瘍薬の併用に関しては、各治療による骨髄抑制の程度及び血液学的検査値の最低値の出現時期を十分考慮して慎重に決定する。」と記載されている。
 今回のマニュアル改定により、投与に慎重を要するものの本剤と化学療法との同時併用が可能となった。骨転移疼痛に対し、化学療法中であってもADLまたはQOLが改善される質の高い緩和医療を施行するため、鎮痛薬のみならず、がんの原因療法である放射線治療の一環として、本剤の使用を早期から考慮すべきであろう。
 以上、塩化ストロンチウム-89治療の使用適正マニュアルの改定について述べてきたが、未だに各診療科においては、本剤に対して鎮痛薬の一つとしての認識しかないか、あるいは治療手段がなくなった終末期で使用すべき製剤であるとの誤解が残っていることが危惧される。今回の適正使用マニュアル改定により、より安全で有効な本剤の臨床適応ができるようになった。これを機に有痛性骨転移に対する治療として、早期段階からの本剤の使用が望まれる。

謝辞:本稿の執筆にあたり、図表の提供、原稿内容の確認および校正をお願いした、日本メジフィジックス 腫瘍製品企画部 吉村光信氏に深謝いたします。

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