Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.61
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2013  61
Current Insight
緩和医療における前向き臨床試験の重要性
日本緩和医療学会オンラインジャーナル編集委員
東北大学病院 臨床研究推進センター
井上 彰
 腫瘍内科医として進行がんの患者さんに関わっている私にとって、新しい治療(主に抗がん剤)の有効性や安全性を検討する臨床試験に参加するのは珍しいことではありませんが、緩和医療においては「良いかどうか分からない治療の臨床試験」に抵抗感を持たれる方が少なくない印象を受けます。ただ、それは大きな間違いであると言わざるを得ません。何故なら新しい治療に限らず、「昔から行われてきた治療(対症療法も含む)」のなかにも、本当に有用かどうか分からないものは山ほどあるからです。それらを良いと信じ込んで漫然と日常診療で用いる立場と、有用性を確かめるべく臨床研究を行う立場では、医療者として後者が正しいのは明らかです。
 事実、海外では緩和領域の治療についても前向き臨床試験で有効性を検証する動きが盛んで、数多くの重要な結果が示されています。この1年の間にも「がん性疼痛に対するケタミンは無効」、「進行がんの倦怠感に対するステロイドは有効」との結果がプラセボ対照無作為化比較試験によって示され、臨床腫瘍学のトップジャーナルであるJ Clin Oncol 誌にそれぞれ掲載されました。ケタミンは疼痛緩和のガイドラインでも推奨されている古くからの治療薬であり、上記の結果に賛同できない方は多いでしょう。私自身、おそらくは対象患者の選択の仕方で異なる結果になったのではと感じます。しかし、少なくとも「経験的に有効だ」という主観的な意見よりはるかに重い意味があり、本剤の適切な用い方については今後も検討すべきと思います。一方のステロイドは、私を含め「経験的に」用いていた方は多いでしょうが、科学的にその有用性が証明されたことは非常に重要です。
 このような前向き介入研究は日本でも最近増えてきましたが、率直な印象として研究計画(プロトコール)が拙いものが多いです。研究の背景が漠然として意義が不明なものや、エンドポイントが不適切で結果を客観的に評価できないもの、サンプルサイズが不十分で統計学的評価に耐えられないものなどは、計画段階でその後の顛末が見えてしまいます。「取りあえずやってみよう」という姿勢も大事ですが、患者さんの貴重な協力を得るからには、日常臨床に還元できるような研究を行うべきでしょう。もちろん苦労は多いですが、良い結果が得られた際の喜びは格別ですので、特に若手の皆さんには是非意欲的に取り組んでいただければと思います。そして、前回宮下先生が書かれたように良い結果はしっかりと論文にまとめましょう。
 東京オリンピック開催に湧く昨今ですが、「気は優しくて力持ち(実力者)」というのはスポーツ選手だけでなく、緩和医療に携わる医療者にも望まれる資質だと思います。緩和医療における優れた臨床試験の結果が日本から発信される日を強く願う次第です。

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