Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.61
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2013  61
口演7
非がんの緩和ケア
座長・報告  独立行政法人国立病院機構新潟病院
中島  孝
国立長寿医療研究センター 緩和ケア診療部、
在宅連携医療部、内科総合診療部呼吸機能診療科
西川 満則
 毎年、緩和医療学会で少しずつ深まっている領域が「非がんの緩和ケア」である。しかし、現在日本では緩和ケア診療加算も緩和ケア病棟入院料も悪性腫瘍の患者と後天性免疫不全症候群のケアに対してでしかなく、多くの参加者はまだ真の方向性を見いだせていない。それでも今回のセッションでは実りが多い議論が行われた。
 現代の緩和ケアシステムは1967年に英国でシシリーソンダースが構築したホスピスに由来するが、当初から、がんだけでなく非がんの難病ケアと在宅支援が対象とされていた。非がんの患者に対するケア技術の向上はがんの緩和ケアの質を高めるためにも重要と考えられてきた。日本や北米などの緩和医療制度においては、英国とは異なり、生命維持療法、がん化学療法、放射線療法、手術を緩和として捉えるのが困難な医療費構造がとられている上、米国のメディケアのホスピスは六ヶ月以内に患者死亡が予想される終末期医療システムであり、日本の緩和ケア病棟も包括医療であるため、現実には治療選択の幅が制限されている。このため、緩和ケアにおいて、重要な価値観である”Affirm life”,“Do notabandon life”の理解、緩和の方法論としての多様な症状コントロールの理解は難しくなってしまった。緩和ケアとは患者・家族に死を受容させ、麻薬で痛みをコントロールし、良い死を迎えることを促進するケアとする意味の取り間違えが起きている。
 一方、WHO、世界の臓器別専門学会、総合診療を行っている学会は治せない病態や高齢化社会におけるケアの質の向上や「喪失から再生」のケアとして緩和ケアの重要性を認識しており、日本の各専門学会の専門医、在宅医も、緩和ケアアプローチにそれを期待している。緩和ケアとは決してターミナルケアに限定したものではなく、QOLが向上し生命予後も良くなることは本来の緩和ケアのアウトカムとして良いはずなのである。日本や北米で、緩和ケアチームの実際の介入が、治療をあきらめた終末期になってしまうのはとても残念なことである。緩和ケアとは終末期に行うケア行為を示すものではなく、治らない病気に対して、緩和ケアとしての価値観・意味で行われるケアの事であり、どの病期においても必要とされるのである。
 現状では、今回のセッションの共通テーマとして、非がんの領域において、疾患毎の専門医がモルヒネを適正に使えるかどうか、また緩和ケアチームががん患者の疼痛管理のみならず、非がんの患者の症状コントロールとしてモルヒネを適正に使えるかどうかが焦点となってしまったことは致し方がない。現代緩和ケアは症状コントロールとしての痛みの薬理学的コントロールでさえも、モルヒネが有効な痛みだけでなく、プレガバリンが有効な痛みも、向精神薬が有効な痛みもあると考えており、さらに、薬物療法以外のあらゆる治療法をも緩和として推進している中で、「非がんの緩和ケアとはモルヒネ療法」と多くの参加者が捉えていると誤解されかねないのは、すこし残念だった。
 このセッションではがん以外の疼痛、呼吸不全に対する呼吸苦、ALSや心不全に対する呼吸苦を緩和するモルヒネの使用経験が発表された。また、間質性肺炎の急性期治療にも焦点をあてcureとcareのバランスをとることの重要性が発表された。身体症状の緩和について言えば、それぞれレベルの高い発表だったが、今後、モルヒネの有効性を評価するためには緩和であるにしても何らかの対照薬との比較検討が望ましい。心不全の呼吸苦に対して、モルヒネは病態的にも有効性が高いと思われるが、持続皮下注(CSCI:continuous subcutaneous infusion)を使うと一日10mgという少量で有用であることが発表されていたのはとても印象深かった。
 緩和ケアチームの在り方も、国際的な流れに対応し、呼吸不全や心不全などに対しては、理学療法士などリハビリスタッフの役割を重視し、緩和(パリエーション)としての人工呼吸療法、栄養療法などのmultidisciplinary team(多専門職種チーム)の重要性が指摘された。身体的な痛みに限らず症状のコントロールを行いながら、患者・家族のQOLを向上するために、その時の患者本人の意思、気持ちを尊重して、「語り(ナラティブ)」を傾聴していくことこそ非がんの緩和ケアであることが話合われた。それは、がんに対しても共有すべき緩和ケアの価値であることは明らかである。

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