Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.61
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2013  61
パネルディスカッション5
End of life を考える
〜日本人と和の心〜
座長・報告・演者  飛騨千光寺/京都大学大学院医学研究科  大下 大圓
座長  京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻  若村 智子
 最初に基調提案として、大下大圓が日本人の心性について、インド哲学から流れをくむ思想的背景や、日本人の活動形態を端的に表す「和」の意味の解釈を加えた。和とは「こえを合せる、やわらぐ、かなう、あつまる、ゆるす、なかなおりをする」とあり、古字においては「?」であり、「ととのう、やわらぐ、あう」であるとして、衆縁和合の精神が融和的な思考を生み出したことを説明した。なおその精神性は現代においては「全体的」「全的」「全体論的」と表記される「holistic」と類似性をもち、「ホリスティック医学」や「チーム医療」に反映されているとした。「和の医療」を提言したあとに3人の演題発表があり、日本人の精神性に基づいた緩和医療の方向性を全体でも議論した。
 1番目に、新潟の白根大通病院ホスピス医である長谷川聡さんは「特殊な自然環境のもと、日本人は独自の風土・文化・歴史を築き、宗教に深くは依存しない精神性が培われた。その精神的基盤として「農耕民族的社会性」の影響が特に強く、協調性や和が重視された。人との繋がりが心の拠り所となるのである。一方その欠如は、心的苦悩の大きな要因にもなりうる。終末期の心理・精神面を理解するため、「全人的苦痛」とは異なる「和心」の視点でも苦悩を捉えることが大切である」と提言された。
 2番目に岩手県でホームケアクリニックえんの訪問看護師である高橋美保さんは「地域の『早く逝きたい』という言葉は穏やかな響きを持つ。理由として、生活の中では『いのち』を伝える場があり、伝える人がおり、日々の営みがある。生死を特別なことにせず、あたりまえに過ごしている。だからこそ私達は、いのちに関わる者として目の前の方が生活の中で大事にしていることを『伝えることができるように』地域の人と共に、つらさを軽減できる知識と技術、こころを持っていきたい」と。
 3番目には、東北大学大学院文学研究科准教授の谷山洋三さんは「様々な調査によると、特定の宗教(成立宗教)を信仰している人々は約2割ほどだが、墓参りや仏壇・神棚に手を合わせる人々は7割以上になる。例えば仏壇には、本来仏教とは無関係なはずの祖先信仰的要素が強く入り込んでおり、特に、先祖の霊の依り代である位牌に具現化される。このように、和の心に適ったスピリチュアルケア、宗教的ケアについて考えるとき、民間信仰という側面は重要であり、臨床宗教師の研修にも活かされている。」と提言された。
 医療では、日頃から分析的な思考を科学的なものとして重視しがちである。しかし、3人の演題は、目の前に起こる事象を統合した形で読み取る重要性を日本人の心として述べたものであった。これは基調講演と深く呼応し、End of life のひとつの様相を描き出すことになった。

Close