Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.60
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2013  60
Journal Club
終末期がん患者の呼吸困難に対する非侵襲的人工呼吸(NIV)と
酸素療法の無作為化比較試験
東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻 緩和ケア看護学分野  佐藤 一樹
Nava S, Ferrer M, Esquinas A, Scala R, Groff P,Cosentini R, et al. Palliative use of non-invasive ventilation in end-of-life patients with solid tumours:a randomised feasibility trial. Lancet Oncol.
2013;14(3):219-27.

【目的】
 最良の緩和医療を提供しても、多くの終末期がん患者は呼吸困難を経験する。非侵襲的人工呼吸(NIV)の忍容性と呼吸困難症状の緩和やオピオイド使用量減少に対する酸素療法を比較対照とした有効性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
 イタリア、スペイン、台湾のICU7施設で、予後6か月以内と見込まれ、P/F比<250、呼吸困難症状を有する終末期がん患者を対象とした。すべての患者に5分間程度NIVを装着し、NIV装着可能であった患者に対し、高炭酸ガス血症の有無(炭酸ガス分圧PaCO2 45mmHgを基準)により層別無作為化し、NIV群と酸素投与群に割り付けた。NIV群は、BiPAP Visionを用い、呼気終末陽圧PEEP=5cmH2O以上、吸気時圧支持=10cmH2O以上、吸入気酸素濃度FiO2は適宜設定し、動脈血酸素飽和度SaO2が90%以上となるように調整した。NIVは、患者・家族の希望時や看取りが近い時期、呼吸困難症状の改善時には中止した。酸素投与群は、ベンチュリーマスクまたはリザーバーマスクを用い、SaO2が90%以上となるようにFiO2を調整した。主要評価項目はNIVの忍容性と呼吸困難症状(0〜10のボルグスケール)の緩和やオピオイド使用量減少に対する酸素療法を比較対照とした有効性とした。
【結果】
 急性呼吸不全を有しICUに入室した終末期がん患者200名をNIV群99名・酸素投与群101名に無作為割り付けした。治療中止は、NIV群11名・酸素投与群0名であった。主な有害事象は、NIV群で嘔気・嘔吐5名、便秘4名、のどの乾燥6名、閉所恐怖6名不安・発汗4名など、酸素投与群で嘔気・嘔吐4名、便秘6名、不安・発汗4名などであった。呼吸困難感は、酸素投与群よりNIV群で有意に早く改善し(呼吸困難感の改善の差0.58,p=0.0012)、高炭酸ガス血症を有する場合はNIV開始後1時間でほとんどの患者に効果が認められた。治療開始後48時間でのモルヒネ投与総量は、酸素投与群(59.4±67.1mg)に比較してNIV群(26.9±37.3mg)で有意に少なかった。NIV中止の原因となった有害事象は、主にマスクによる不快症状と不安であった。モルヒネ投与中止となった理由は、重度の嘔気・嘔吐(両群1名ずつ)、突然の心停止(NIV群1名)、心筋梗塞(酸素投与群1名)であった。高炭酸ガス血症を有する場合、酸素投与群よりNIV 群で有意に病院死が少なかった(HR=0.41, 95% CI0.10-0.80)が、全体では病院死と有意な関連はみられなかった。
【結論】
 終末期がん患者の呼吸困難症状の緩和やオピオイド使用量減少に対する酸素療法と比較したNIVの有効性が示唆された。今後はNIVの予後に対する効果などより詳細に検証する必要がある。しかし、今回はNIV使用に慣れたICUでの研究であったため、本研究の知見の一般化は難しい。
【コメント】
 本研究の知見はICUでの調査結果であり、すぐに日本の一般病棟や緩和ケア病棟での呼吸困難感の緩和にNIVを推奨することはできない。急性呼吸不全の原因がさまざまであること、NIV装着に関連した不快症状があること、ICUであり医療者がNIVの管理に慣れていること、器材が利用しやすいこと、そもそもNIVを装着可能であった患者のみを研究対象としていることなどに注意が必要である。一方で、特に高炭酸ガス血症を有する患者に対し、モルヒネなど通常の緩和治療で緩和できない呼吸困難に対して鎮静以外の選択肢があることで、家族とお別れの時間を持てることや重要な意思決定ができることにつながるかもしれない。臨床応用のためには、NIVによる呼吸困難感の緩和治療の適用基準についてより詳細な研究が求められる。

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