Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.60
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2013  60
Current Insight
がん診療ガイドライン
湘南鎌倉総合病院オンコロジーセンター  太田 惠一朗
 がん対策基本法のキーワードに「均霑(きんてん)化」という言葉がある。どこでも誰もが、等しくある一定水準のがん医療を受けられるようにとの思いがそこに込められている。がん診療の均霑化に欠くことのできないツールが「がん診療ガイドライン」である。
 2001年3月、日本胃癌学会が「胃癌治療ガイドライン」を発刊したのが始まりで、各専門分野の学会、研究会が独自に、各々の分野の臨床研究に基づく科学的根拠や現段階におけるコンセンサスを考慮して作成している。実臨床の診療内容を拘束するものではなく、あくまでも治療の指針であり、各患者個人の病態に応じた対応が望まれる。臨床試験で得られた新たな知見をもとに、ガイドラインは改訂される。また、ガイドラインに記載されている標準治療を参考に、新たな臨床試験の説明の際にも利用される。
 そもそも診療ガイドラインとは、「特定の臨床状況において、適切な判断を行うため、臨床家(医師に限らない)と患者(家族や介護者も含む)を支援する目的で系統的に作成された文書」である(米国医学研究所Institute of Medicine,1990)。2011年のIOMの定義では、「患者ケアの最適化を目的とする推奨を含む文書であり、エビデンスの系統的レビューと、他の選択肢の益と害の評価によって作成される」とある。
 診療ガイドライン作成の方法論にGRADE(Grading of Recommendations Assessment,Development and Evaluation) がある。エビデンスの質と推奨の強さとを系統的にグレーディングするアプローチであり、系統的レビューや診療ガイドライン作成および理解するための標準的な方法となりつつある。
 診療ガイドラインの評価は国際的評価ツールであるAGREE(Appraisal of Guidelines for Researchand Evaluation) で行われる。今年6月29日に開催された医療情報サービスMindsの診療ガイドライン作成者のための意見交換会での報告では、2001年版AGREEIと2009年版AGREEIIの評価方法による差はなく、268編のガイドラインを評価し、一定水準を満たしたのは約半数の87編であった。AGREEIIの項目は1) 対象と目的、2) 利害関係者の参加、3)作成の厳密さ、4)提示の明確さ、5)適用可能性、6)編集の独立性の6領域である。この中で、ガイドラインの目的と対象者、そしてどのような転帰を改善しようとしているかを明記することがガイドラインの質に反映するという。これからは量よりも質が問われる段階に入ったと説明された。
 また一方で、わが国ではガイドラインに対する過大評価があるが、あくまで疫学的手法で得られた質の高い一般論である。複数の併存疾患を有する患者の状態や各医療施設の事情を考慮しながら、ガイドラインに医療スタッフの経験に基づく判断も加味しなければならないことも挙げられた。

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