Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.60
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2013  60
ワークショップ9
死の生理学に関するEvidence
座長・報告  弘前大学医学部附属病院 麻酔科 緩和ケア診療室  佐藤 哲観
座長  東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野  宮下 光令
 このワークショップでは、公募演題として三重県立志摩病院緩和ケア科の山際健太郎氏、指定演題として国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野の上園保仁氏と鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学の乾明夫氏の計3名にご発表いただいた。
 山際氏は、終末期がん患者67人の貧血に着眼し、その原因と病態を鉄代謝や網赤血球産生能の面から論考した。臨床的に出血の原因が不明で消耗性疾患に付随する貧血を呈する患者では、溶血や出血がないにもかかわらず、網赤血球の増加と、鉄代謝異常による赤血球産生能低下を同時に生じていることが示唆され、摂食量低下も鉄欠乏に拍車をかけることが示唆された。終末期患者のケアを行いながらscientistとして患者の身体機能の変化を具に観察することの大切さをご教示いただいた。
 上園氏は、豊富な漢方治療のご経験に基づいて、グレリンを介した食欲刺激作用を有する六君子湯の有用性をご紹介された。医療現場における日常の出来事には科学的な側面と人間的な側面があること、高度細分化された現代の医療そしてチーム医療の落とし穴として、患者にとって「誰が船頭として自分の全体像をみてくれるのだ」という事態を生じやすいこと、について言及し、エビデンスによって構築される科学的側面と、個々人の価値観や生きる意味を尊重する人間的側面のバランスをもって、「生への支援」と「死への支援」を真摯に行っていくことの重要性を述べられた。
 乾氏は、健康長寿に関連するいくつかの要因を解説し、遺伝子で規定された要因と環境要因によって健康寿命の長短が左右され、長寿を全うする人の死因として免疫能低下、摂食量低下と悪液質が根底をなすであろうと推論されている。人間にとって天寿とは何かということを考えさせられる深遠なお話であった。
 天候不順な第1日目の最後のセッションであったが、多くの皆様にご聴講いただき、各演者の方々との質疑応答も活発に行われ、多くの参加者にとって「死にゆく人」に対する医療者としての新たな視点が芽生えたことと思われる。

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