Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.60
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2013  60
パネルディスカッション1
悪液質を制御する
座長・報告  足利赤十字病院 緩和ケア内科  田村洋一郎
座長  鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 社会・行動医学講座 心身内科学分野  乾  明夫
 悪液質は慢性の消耗性疾患にみられる栄養不良の終末像で、栄養摂取量の減少と代謝異常によってもたらされる蛋白・エネルギーの喪失した状態、体重減少と筋肉量の減少が起きている。どう対処すべきか、不明で未解決の問題が数多く残されている一方、諸外国とくに欧米では主要な研究テーマの一つとなっている。日本でも本学会が中心的役割を果たすべきと考えていたが、今回、本主題が提示され、活発な討議が行われた。
 上園氏らはヒト悪液質モデルラットを作製して六君子湯を投与し、体重減少が改善することを明らかにした。六君子湯は末梢投与で唯一有効な食欲促進ペプチド、グレリンの分泌を促すとされていたが、悪液質ではグレリンがすでに高値となっていて、六君子湯に含有されるソウジュツのアトラクチロジンがグレリン受容体の感受性を高めることがその機序であることを示した。この知見を応用した薬物の開発が期待される。
 山田氏は悪液質に見られる筋肉量の減少は栄養障害より炎症が関連することから、悪液質治療の主体は抗炎症治療とした。具体的にω -3 系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)をあげ、がん細胞に与える直接的効果を示した。今後、詳細な病態把握のためアルブミン・CRPに加え、急性期蛋白や免疫能との関連の検討が望まれる。
 森氏はがん悪液質における脂質代謝を脂肪乳剤の投与とトリグリセリド値から検討し、脂肪乳剤が有効に代謝されることを報告した。脂質代謝を制御するリポ蛋白リパーゼ(LPL)はインスリンの影響を受け、異なる2つのアイソザイムを持ち、一つは脂肪酸を筋組織などでエネルギー源に、一つは脂肪組織で貯蔵に向かわせるが、終末期では抑制されている。臨死期でのケトン体代謝を考慮すると、エネルギー基質としての脂肪は重要な意義を持ち、悪液質における脂質代謝とLPLとの関連の解明が望まれる。
 服巻氏は悪液質への医学的対応として「維持保存療法へのシフトダウン」と「がんとともに生きる適応への支援」を指摘し、がん診断時からの患者のこころとからだのサポートが悪液質を制御することを強調した。心理学的療法として、意図、努力、身体運動から成り立つ「動作法」を紹介し、その可能性を報告した。
 総合討議では、がん悪液質を制御するにはPrecachexia、Cachexia、Refractory cachexia に分け、病態を正確に診断し、病期別の対応が必須であるとの見解が示された。
 現状では「悪液質を制御する」は極めて解決困難な課題といえる。というのも、がんの本質が消耗性疾患であることから、担がん患者にとって必然的に生じてきてしまう進行性の病態だからである。臨床医として、日々「この病態、なんとかならないものか」と感じているが、腫瘍学、代謝・栄養学、免疫学、心理学などを活用して、少しでも悪液質を緩和できるようにしていかなければと気持ちを新たにした。

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