Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.59
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2013  59
Journal Club
進行がん患者に対する輸液療法:
多施設2重盲検プラセボ対照無作為化比較試験
手稲渓仁会病院 総合内科・緩和ケアチーム
山口 崇

Bruera E, Hui D, Dalal S, Torres-Vigil I, Trumble J, Roosth J, Krauter S, Strickland C, Unger K, Palmer JL, Allo J, Frisbee-Hume S, Tarleton K.Parenteral hydration in patients with advanced cancer:a multicenter, double-blind, placebo-controlled randomized trial.J Clin Oncol. 2013 Jan 1;31(1):111-8.

【目的】
 ホスピスケアを受けている進行がん患者で輸液がプラセボよりも、脱水に伴う症状・せん妄の発症や重症度の改善に寄与するか、QoL・生存に影響を与えるかを明らかにする。
【方法】
 デザインは多施設2重盲検プラセボ対照無作為化比較試験である。2007年2月から2011年4月までの間に、アメリカの5つのホスピスで行われた。適格基準は、進行がん・18歳以上・ホスピスプログラム介入中・経口摂取が低下し軽〜中等度の脱水所見がみられる・予測予後1週間以上・せん妄なし、などである。除外基準は、重度の脱水(血圧低下・意識低下・12時間以上無尿状態、など)・腎不全/心不全/出血傾向の既往がある場合、とした。参加者は輸液群(生理食塩水1000ml/日)とプラセボ群(生理食塩水100ml/日)に割り付けられた。13の症状がESASで評価された。主要評価項目は試験開始時と4日目の脱水関連症状(倦怠感・ミオクローヌス・鎮静・幻視)スコアの合計点の変化である。副次評価項目は、せん妄(MDAS・RASS・NuDESC)・QoL(FACIT-F)・生存期間(試験参加〜追跡終了もしくは死亡)である。
【結果】
 129名が無作為に割り付けられた(輸液群63名、プラセボ群66名)。各群の患者背景に差は認めず、全体の88%がECOG PS 3-4であった。全体の生存期間の中央値は17日であった。4日目の脱水関連症状スコアの合計は各群とも試験開始時と比較して有意に改善していたが、群間では有意差を認めなかった。各症状スコアの変化も群間で有意差を認めなかった。4日目・7日目のいずれの時点でもMDAS・RASSともに試験開始時よりも有意に悪化し、両群で有意な差はなかった。夜間のNuDESCスコアは輸液群に比較してプラセボ群で有意に悪化していた。輸液群では7 日目のFACIT-Fが有意に改善したが、プラセボ群では改善傾向であったが、有意ではなかった。群間でFACIT-F変化に有意差を認めなかった。生存期間の中央値は両群で有意差を認めなかった(輸液群21日、プラセボ群15日;P=0.83)
【結論】
 予後数週以内の進行がん患者に対する1000ml/日の輸液は脱水症状・QoL・生存期間の改善に寄与しない。 【コメント】
 本研究は、経口摂取が難しくなった進行がん患者に対する輸液の有用性をホスピスセッティングで評価した初めての比較試験である。本試験では、1000ml/日と100ml/日の輸液を行うことで、脱水 関連症状・QoL・生存期間、いずれも有意な差が無かったという結果であった。この結果から、経口摂取ができなくなったという理由で無条件に1000ml/日以上の輸液を行うのではなく、予後数週間と予測される進行がん患者に対しては、輸液を行うことのメリットを十分に検討した上で、適切な輸液量を日々観察しながら検討することが必要であるということが言える。ただし、本研究ではもともと150例が必要サンプルサイズとして計算されていたにも関わらず、最終的に129例の解析にとどまったことは結果を読むにあたって注意が必要である。また、血圧が低いなどの脱水所見が強い患者は除外されており、そのような状況の患者に対してどう対応するかに関しては、個々の臨床状況や患者・家族の希望などを踏まえながら輸液療法を考える必要がある。いくつかの限界はあるが、終末期・ホスピスセッティングでプラセボを使用した比較試験を行うことの実現可能性および重要性を示した重要な研究であると考えられる。

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