Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.59
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2013  59
Current Insight
日本緩和医療学会 専門医制度
慶應義塾大学医学部 麻酔学教室腫瘍センター 緩和医療部門
橋口 さおり
 専門医制度について様々な議論がされています。現在は、各学会で基準を作成し、臨床経験と試験による能力確認を行って認定していますが、乱立した結果、質の担保に懸念を生じるような専門医制度も存在しているのが現状です。現行のままでは「安全で質が高い医療が偏在なく提供される」という国民のニーズには十分応えられる制度とはいえないことから、専門医制度の見直しが検討されるにいたりました。2013年3月時点での検討資料からわかることを踏まえ、当学会の専門医制度について考えてみたいと思います。
 緩和医療専門医の役割は、生命を脅かす疾患に伴う様々な問題に直面している患者や家族がかかえる諸問題の早期かつ適切な評価と対応であり、患者と家族を全人的に把握し理解する能力と資質が求められます。当学会の大きな特徴として、医師が様々なバックグラウンドを持ちながら集まっている点が挙げられます。緩和医療が注目されるようになったのは最近のことであり、医学教育の中にもほとんど取り上げられていませんでした。多くの医師は、それぞれが考える‘緩和医療’を習得するために独自の研修を進めてきました。そのような中で到達目標を示すのが、キャリアパスの道標としての専門医制度といえます。がん対策基本法の施行が緩和医療の発展を大きく後押ししたこと、緩和ケア病棟などでの対象が主に悪性腫瘍と後天性免疫不全症候群の患者となっていることから、がんの治療経験をもつ医師がこの領域に参入しています。また、痛みが主たる身体症状となっている患者が多いことから、麻酔科医も携わっています。しかし、どの領域からの医師にしても、それぞれ強化しなければならない部分を持っています。日本では歴史的に医学とケアを分けて考えてきましたので、家族や療養のことも考えて医療を構築することは、どの医師も学ばなければなりません。看取りへの関与も、倫理や死生学など人文系の見識が必要になります。麻酔科など中央診療部門従事者は、多くの職種をまとめる運営には慣れていますが、主治医としての経験が少ないこと、がん治療の知識が少ないことが弱い部分です。主治医としての関わりが主である医師は、緩和ケアチームでのコンサルテーションや多職種を束ねる経験があったほうがよいと考えます。また、研修期間の早くから緩和ケア病棟などに特化した研修を行っている医師は、腫瘍学や積極的抗がん治療について強化すべきと考えます。さらに、緩和医療はエビデンスが不足している部分も多々ありますので、科学的思考ができ、臨床研究を遂行できる人材の養成が必要です。また基本的緩和ケアの教育や後進の指導も大切な役割ですので、教育経験も重要になってきます。
 これまで4回の専門医試験では、症例報告書を含む書類審査、筆記試験、口頭試問が実施されてきました。症例報告では、全人的視点で患者を診ることができるかどうかを審査しています。2013年度からは、課題症例を設定しましたので、これまでよりは焦点をしぼりやすくなったのではないかと考えています。筆記試験はOxfordのテキストと当学会のガイドラインをもとに問題を作成しており、広範な知識が求められます。口頭試問については、昨年度は症例問題とロールプレイを行いました。バックグラウンドの専門領域に偏ることなく、バランスのとれた能力をもつ専門医の養成を視野に入れて審査を実施しています。
 今後の動きについてですが、厚生労働省の専門医の在り方に関する検討会では、中立的な第三者機関で認定する仕組みについて検討されてきました。専門医制度は二段階となり、基本領域とサブスペシャルティ領域に分かれます。現状では、当学会の専門医は基本領域に入らないことから、専門医制度の見直された場合にはサブスペシャリティ領域になることが予想されます。現行の緩和医療専門医では基本領域の専門医を取得することは必須としていませんが、これから緩和医療専門医を目指す医師は、基本領域の専門医資格を持つことをも視野に入れた研修をすることを勧めます。また、新専門医制度では、認定研修施設における研修の質を重視することを検討しているようです。指導側も、偏りのない研修が可能となるような研修プログラムの立案、例えば基盤施設と関連施設を組み合わせた研修施設グループの構築などへ向けて準備をしていきたいと考えます。新専門医制度については以前から議論されており、未だに実行されていない現状を考えると、そう簡単には移行しないという見方もあります。しかし、現行の専門医制度をより良くするように、また、特に若手医師にとって本制度がわかりやすいものとなるよう、引き続き努めます。

Close