Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.58
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2013  58
Current Insight
小児緩和ケアの潮流
大阪市立総合医療センター 緩和医療科兼小児総合診療科  多田羅 竜平
はじめに
 2012 年6月に発表された第二期がん対策推進基本計画において「小児がん」が新たな重点項目となり、今後、小児がん治療施設の集約化を目指すとともに集学的医療(緩和ケアを含む)を提供することが政策課題として示された。わが国において小児への緩和ケアはこれまでほとんど手つかずの領域であったことを考えると、きわめてチャレンジングな提言であり、これから小児緩和ケアがどのように発展するのか、今まさにその端緒に立っているといえよう。

専門的緩和ケアの課題
 今後、専門的小児緩和ケアを整備していくにあたり、成人での取り組みは大いに学ぶべき点があるものの、同じ手法やシステムを目指すことは必ずしも適切とはいえない。端的な例を挙げると、悪性新生物の死亡者数が成人は年間35万人を超えるのに対して小児では500人にも満たないことからもわかるように、対象患者の絶対数が少ないため、専門家の養成が困難であり、専属スタッフを配置することは診療報酬上も容易ではない。しかも、非がん疾患のウェイトが成人に比べて大きい上、疾患が希少かつ多様であるなど医療上のニーズの複雑さに加えて、教育の継続、家族(兄弟)にも及ぶ心理社会的な問題、そして子どもを亡くすことの重大性など成人以上に多岐にわたる難しいニーズに多職種的、多施設的に取り組まなければならないからである。
 このような状況においてまず優先すべき課題は、各スペシャリストが果たすべき役割(ロールモデル)を確立することであろう。例えば英国ではすでに小児緩和医療専門医が小児科医のサブスペシャリティとして英国小児科学会から正式に認められていることからもわかるとおり、専門医の役割が小児医療現場で周知され、がんのみならず、むしろ非がんの子どもたちへの緩和ケアの提供に貢献しているが、もちろんわが国ではそのようなポジションが小児医療現場の中で定着しているわけでない。また小児緩和ケアチームに従事する看護師の役割も確立していない。役割を発揮するには緩和ケアの知識を有するだけでは不十分で、小児特有の緩和ケアのニーズを適切に把握し評価したうえで、医療スタッフをはじめ、教師、保育士、心理士、ホスピタル・プレイ・スペ シャリスト、保健師など子どもと関わる様々なスペシャリストによる多職種的なアプローチをコーディネートするスキルが求められる。そして、今後の施設集約化に伴い、より広域の子どもを対象とする必要があることを考慮すると、さらに多施設間のアクティブなリエゾン・システムの構築も必要であろう。
 このように医師、看護師を中心に緩和ケアチームの果たすべき役割を多職種的、多施設的な観点からシステム構築していかなければならない。

一般的緩和ケアの課題
 小児医療現場における一般的緩和ケアの普及も重要な課題であり、先の計画でも研修会の実施などが項目として挙げられている。とりわけ喫緊の課題としては、オピオイドの適切な使用を含めた疼痛緩和技術の向上があげられよう。2012年2月にWHOから出された小児の疼痛管理ガイドラインの普及は、わが国のみでなく国際的に重要なテーマとなっている。また、子どものエンド・オブ・ライフが、より安らかなものとなるための様々なケアや取り組みが普及することも望まれる。なにより成人以上に複雑な倫理的諸問題に対して一貫性をもって対処すべき必要性は切実である。
 われわれはこうした課題を少しずつでも改善すべく、3年前から「小児科医のための緩和ケア教育プログラム(CLIC)」の開発、開催に取り組んできた。今後、一般的小児緩和ケアのより一層の標準化、均てん化に向けて、多職種が各々のニーズに応じて様々な形で学べる機会を作り出していくことが求められている。

こどものホスピスの課題
 近年、全国で「こどものホスピス」を立ち上げる活動が広がり始めている。こどものホスピスとは、生命に限りのある子どもとその家族を、症状緩和、家族の心身の休息、各種療法、心理社会的サポート、遊び、ターミナルケア、遺族のサポートなどの様々なアプローチを通じて支えていくための理念と実践およびそのための施設である。
 国際的にはすでに多くのこどものホスピスが活動しているが、それらが共通して大切にしている理念は、”Home from home”(病院ではない家庭的な環境)、”Alongside as a friend”(上から管理・指導するのではなく、下から給仕するのでもなく、同じ目線の友人としてそばに寄り添うこと、例えば、スタッフが子どもや家族と同じテーブルで食事をするのもこどものホスピスのユニークな特徴である)、そして”Local initiative”(地域主導で地元のこどものホスピスを支えること)が挙げられるだろう。運営資金の調達、様々なボランティアとしての貢献などを通じて地元の住民や企業などが力を合わせて運営を支える姿こそが、こどものホスピスのもつ美しさの本質であるといって過言ではない。このような取り組みはわが国では過去に例を見ないが、今後こどものホスピスの活動を発展させていくためには、わが国の制度や地域の実情に見合ったケアモデルの確立、多職種的な人材の育成、経済基盤を確保、そのための地域の理解など克服すべき課題は少なくない。

おわりに
 このように小児緩和ケアの発展に向けて克服していくべき課題は決して少なくないが、こどものホスピス創始者シスター・フランシスは「できることから一つ一つ小さな取り組みを積み上げていくことが大切である」と唱えている。小さな活動が有機的につながり、より幅広いネットワークと重層的なシステムを構築していくための力を、今こそ結集すべき時が来ている。

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