Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.57
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2012  57
ワークショップ2
ガイドラインを使いこなす2
〜終末期がん患者に対する輸液ガイドライン〜
座長・報告  藤田保健衛生大学医学部 外科・緩和医療学講座  東口 志
 2006年に森田達也前部会長のもと、第1版の終末期がん患者に対する輸液ガイドラインが作成され、出版された。このガイドラインは主として過剰輸液による症状増悪に対して水分投与量を減じることによって改善させるいわゆる“ギアチェンジ”を啓発すべく生み出された非常にインパクトのある内容であった。その後、約5年の時を経て、水分量だけでなく輸液という一歩進んだカテゴリーで今回の改訂が行われている。小生は前回、作業部会に途中より参加させていただき、輸液量と終末期の悪液質に伴う溢水との関連を十分に討論できずに終わった経緯があり、今回改訂版の作業部会長を仰せつかった際に、@輸液療法という生命維持に重要な役割を演じるものの終末期における役割とその妥当性を検討し、そしてAできるだけ最新の悪液質に関する情報を収集し代謝学的にも解りやすいガイドラインにすることを目的に掲げさせていただいた。
 この第17回学術大会に際し、まだ発表前の状況ではあるが、新しい輸液のガイドラインについて本作業部会で中心的な活動をいただいた2名の講師にお話を伺うことにした。
 まず、二村昭彦先生からは今回のガイドラインのポイントをお示しいただき、第1版と異なる部分についても十分なご説明をいただいた。すなわち、これまでのガイドラインは、対象が生命予後1〜2か月のがん患者であり、ちょうど悪液質が進展して生体内水分分布が大きく変化する時期に一致しており、余命1〜2か月の間に輸液や投与エネルギーも大きく変動させねばならないために、個々の個人差が大きくガイドライン上で的確な提言ができないことが判明した。そこで今回のガイドラインでは推定余命1カ月前後とした。それによって緩和ケアに従事するものだけでなく、がん治療に関連するすべての医療従事者によりわかりやすい形で、輸液量やエネルギー量を減じることの意義を示すことが可能となった。一方、悪液質の概念も本ガイドライン作成中にも刻々と変化して報告されるようになり、最近の知見では悪液質は@Precachexia→ACachexia→BRefractory cachexiaの順に進行し、BRefractory cachexiaにおいては栄養管理を実施しても改善が得られない不可逆的な状態に陥っており、この時期にギアチェンジが実施されることが妥当であるとの見解が得られている。
 二人目の講師である田村洋一郎先生は、臨床医の立場から「とりあえず輸液しておこう」という終末期癌患者の輸液に疑問を持つべきであり、終末期における輸液の適正化の重要性に気づくことの大切さを指摘している。特に、生命予後が月単位から週単位に、週単位から日単位へ変わるにつれて、治療や輸液の目標も変化することを重視すべきと述べた。
 本ガイドラインはこのようにがんの終末期、特に月から週単位へ生命予後が変化していく際の、輸液量や代謝変動を踏まえた栄養管理の在り方を知る上で示唆に富む重要なものになるものと思われた。

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