Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.56
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2012  56
パネルディスカッション5
患者が意思決定できないときの対応
座長・報告・演者  旭川医科大学病院 緩和ケア診療部  阿部 泰之
座長  名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野
明智 龍男
 「患者の自律・自己決定を支える」ことは重要な原則である。しかしながら、実臨床においては「決められない」:意思決定能力の低下や、「決めさせていない」:意思決定能力の判断違い、「決めてくれない」:医師任せの患者などに遭遇する。近年否応なしに臨床課題となっている意思決定の問題を取り上げたセッションである。まず国立がん研究センター東病院小川朝生先生には意思決定能力の基本概念をお話しいただいた。意思決定能力はインフォームド・コンセントが成立する要件のひとつであり、適切に評価するスキルが求められること、しかし、必要な意思決定能力は状況により変化するため、幅を持った評価が求められることが提示された。次いで、意思決定できないときの対応として、認知症、うつ病およびせん妄を取り上げた。青梅慶友病院桑田美代子先生には意思決定が難しい認知症の方の“意思”をいかに支えるか、老人看護専門看護師として豊富な経験をもとに話していただいた。認知症の人にだって“意思”はある。我々がそれを汲み取ることができていないだけだ、という言葉には会場全体が共感していた。広島大学病院小早川誠先生にはがん患者では高頻度に認めるうつ病とせん妄の具体例をお話しいただいた。意思決定能力の評価と適切な治療により自己決定が可能となったうつ病の例や、せん妄への適切な対応により、抗がん治療が可能となった乳がんの例などが提示された。東京大学大学院大関令奈先生には近年キーワードとなっているアドバンス・ケア・プランニングについて歴史的背景、アドバンス・ディレクティブとの違い、最近の知見などをわかりやすく説明していただいた。プロセスを共有することで患者が安心感を得ることが最も大切なことであると付け加えられた。次いで旭川医科大学病院阿部から意思決定能力の違いを超える支援の考え方を提示した。無意識に絶対化されがちな自律という概念を一旦括弧に入れて、その人自体を尊重するという軸を持つ必要性について話した。その後、会場を含めたディスカッションを行った。それぞれが無視できないテーマであることもあって、会場から活発に質問や意見が出た。容易に集束するような話題ではないため、セッション内で各自の疑問が解消するような質疑とはならなかったと推察するが、それだけ今後も議論を重ねる必要のあるテーマであることが明確化された結果となった。今回のセッションを皮切りに今後も同様の討論の場が提供されることを望む。

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