Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.54
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2012  54
特別講演7
いのちを支えるもの〜大震災、人間の絆、心のふるさと〜
座長・報告  鳥取市立病院  田中 紀章
 技術と人間性の相克をテーマとして数々の著作を通じて社会に強いインパクトを与えきた作家、柳田先生は、東北・関東大震災の現場にたたずみ、言葉を失われます。そして、それまでの世界観、死生観を根源から考え直す決意をされたそうです。
 その作業は、大きな人生の悲劇に遭遇した人々の事例を思い起こすことに始まります。盲目の青年を新しい生き方に復活させた看護師、雪のベラルーシで子供を失った母親に希望と感謝の気持ちを取り戻させたボランティアの働きが紹介されました。
 こうしたエピソードがひき起こす感動は、ひとのいのちは生物学的な営みとともに、物語を編むという働きがあるということを気付かせます。このような物語を土台に言葉による関係性を築けば、家庭内暴力にせよ、震災にせよ、人々は受けたトラウマから立ち直れるのです。そして「死」の問題です。誰にも訪れる「死」、あるいは「死による別れ」の問題について、現代医学は片寄った向き合い方をしているのではないかと疑問を投げかけます。
 しかし、この問題を主体的にとらえるには先生ご自身の痛切な経験が必要でした。ご子息が脳死状態になられたとき、先生はベッドサイドでその息子さんと「会話」し、そこで重大なことに気付かれます。それが「生と死の人称性」です。そして、医療者の取るべき立場は、従来の3人称の立場ではなく、2.5人称の立場であるべきだということを提唱されます。この立場こそ、近代科学の絶対性というドグマ、制度化の自縛から人々を開放するものと考えるのです。
 そして、従来の医療というものが、医学を中心に据え、その周囲に看護、介護、リハなどのパラメディカルを配して上下関係を構築してきたことを批判し、震災後の今こそ、大きなケアの領域の中に医学を含め各種のコメディカルを等しく配置し、ケアの働きの一つとして医学があるというパラダイムシフトを図るべき時だと強調されて、お話を終えられました。
 日本緩和医療学会の今後の歩むべき道筋を示していただいたことを、司会者からの謝辞とさせていただきました。

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