Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.54
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2012  54
巻頭言
病院から地域へ、皆の生活を支える緩和医療に
鳥取市立病院  田中 紀章
 第16回日本緩和医療学会は「病院から地域へ」というサブタイトルのもとに、「治す医療」から「生活を支える医療」への転換を会長メッセージに掲げ、緩和ケアをがん以外の疾患に拡大すること、終末期ケアの場が在宅であること、非医療的な視点も持つこと等の方向性を示した。この問題意識の背景には日本社会の超高齢化がある。年々死亡者数は増加し、20年後には約47万人が病院、介護施設、自宅以外の場所で最期を迎えなければならないと予想されている。
 折しも、日本病院会は10年ぶりに「倫理綱領」を改訂、「我々は人の自然な死に思いをいたし、緩和医療を推進し、誰もが受容しうる終末期医療を目指す」と終末期医療のあり方を初めて示した。また、日本老年医学会は、 2001年の高齢者終末期の医療とケアに関する立場表明を近く改訂する予定だ。その中で、年齢による差別に反対する立場を厳守しながらも、患者の尊厳を損なう可能性のある時には治療の差し控えや撤退も選択枝として考慮すること、また、高齢者のあらゆる終末期において、緩和医療およびケアの技術が広く用いられるべきであるとしている。
 このように高齢化を背景に緩和ケアに対する期待は大きく広がってきている。さいわい、がん対策基本法の下に、がん拠点病院を中心に緩和ケアチームが整備され、病院を中心に緩和ケアは急速に普及している。今後の課題は在宅緩和ケアの推進であり、地域ケア体制の確立であろう。5大がんについて地域パスが運用されるようになり、一般の診療所が病院での治療後のフォローに参加することになれば、緩和医療に関する地域連携にも大きな機会が生まれる。かかりつけ医が日常的にがんと非がん疾患をともに診ているという状況は、次に在宅緩和を担う契機となるであろう。
 緩和ケアは、本来、治療に反応しなくなったすべての患者に対して開かれているものである。非がん疾患患者も、その終末期には疼痛、呼吸困難などのさまざまな苦痛のもとにあり、がんと比べてその頻度は決して低いものではない。苦しみを伴うさまざまの病態をコントロールして、自宅で、住み慣れた地域ですごしたいという願いは、がん患者やその家族を含めて、あらゆる人の望みなの である。
 多くの人が自宅もしくはこれに準じる場で終末期を過ごし、心のこもった看取りを受けられるよう、「がんの在宅緩和ケア」の普及が「高齢者終末期医療」の確かな足がかりになることを期待している。

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