Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.53
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2011  53
Journal Club

Dignity therapyの終末期患者の苦悩・苦痛と終末期の体験に対する効果:
無作為化比較試験

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野  宮下 光令

Chochinov HM,Kristjanson LJ,Breitbart W,McClement S,Hack TF,Hassard T,Harlos M.Eff ect of dignity therapy on distress and end-of-life experience in terminally ill patients: a randomized controlled trial. Lancet Oncol. 2011 Aug;12(8):753-62.

【目的】
 Dignity therapyは終末期患者を対象とした個別化された短期心理療法である。本研究では無作為化比較試験においてdignity therapyが終末期の患者の苦悩・苦痛を軽減し、患者の終末期の体験に影響を及ぼすかを検証した。
【方法】
 カナダ、米国、オーストラリアで予後が6カ月未満の病院、ホスピス、自宅にて療養中の患者を対象とした。対象はdignity therapy群、患者中心ケア群(client-centered care:dignity therapyと同じ頻度で患者とコンタクトを取り相談に乗る)、標準的緩和ケア群の3群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はFACT-Sp、patient dignity inventory、HADS、症状や心配事に関する構造化インタビュー、QOL、修正版ESAS などの苦悩・苦痛の介入前後の変化とした。副次的評価項目は介入後の患者の感じた終末期の体験とした。測定はそれまでに患者と接していない独立の評価者が行った。
【結果】
 441人の患者がdignity therapy群に165人、患者中心ケア群に136人、標準的緩和ケア群に140人割りつけられた。それぞれ108人、107人、111人が調査を完遂し分析対象となった。主要評価項目に関しては3群で介入前後の苦悩・苦痛には有意な差がみられなかった。副次的評価項目に関しては患者の体験としてdignity therapy群では「試験参加は有益(helpful) であった(P<0 0001)」「QOL を改善した(P=0.001)」「dignityが高まったと感じた(P=0.002)」「自分に対する家族の認識が変わった(P<0 0001))」「家族にとって有益であった(P<0 0001)」で他の2群より高かった。またdignity therapy群は患者中心ケアに比べspiritualwell-beingを改善し(P=0.006)、標準的ケア群より悲しみや抑うつを減少させ(P=0.009)、満足感が高かった(P<0.0001)。
【結論】
 Dignity therapyの抑うつ、希死念慮などの苦悩・苦痛に対する効果は検証されなかったが、患者の感じた終末期の体験に関して有用性が見られたことはdignity therapyの臨床的な有用性を支持するものである。
【コメント】
 Chochinovらによって開発されたdignity therapyは当初から注目され、単群での前後比較試験や遺族の評価では良好な結果が得られていた。しかし、残念ながら本研究ではRCTによる前後比較では群間差が検出されなかった。これは英国における小規模なRCTと同様の結果である(Hall S, Palliat Med,2011)。しかし、介入後の評価では患者の体験として有益性が示されており、以前の研究結果と合わせて考えても今後有望な介入であると思われる。今回の前後比較で差がでなかった理由の一つに苦悩・苦痛を抱えた参加者が少なかったことを挙げている。研究対象を絞る必要があるかもしれない。日本でもdignity therapyの実施可能性は検討されつつあるものの、dignity therapyのような心理療法は文化による違いも大きいと考えられ、日本人に適した方法や有用性の検討は今後の課題である。

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