Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.50
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2011  50
巻頭言
サイエンスと全人的ケア
監事  柏木 哲夫
 1996年に日本緩和医療学会がスタ ートし、すでに14年が経過した。会 員も9421名(2010年12月7日現在) という大きな学会に発展した。恒藤暁 新理事長のもとで、短期・中期・長期の行動計画が立てられ、学会のホームページにも記載された。行動計画は多岐にわたり、当然のことながら、すべてが同時に進むわけではない。どの分野から始めるべきかという短期的な視点と、学会としてどの領域を重視する かという長期的な展望の両方が必要であろう。
 この行動計画がまとまる前に理事長から、これから学会として取り組むべ き課題として、監事としての意見を求められた。私は行動計画の中で、ともすれば忘れられやすい、しかし、学会 として重要だと思われる5項目を提言した。それらは
 1)緩和医療における「ケア学」の確立、 「ケア」という概念の学際的研究
 2)緩和医療領域における心理的ケア、スピリチュアルケア実践を進める
 3)看護師、ソーシャルワーカー、薬 剤師、栄養士、その他のコメディカル スタッフが学会の中でしっかりしたidentity をもてるように配慮する
 4)他の団体(日本ホスピス緩和ケア協会、日本死の臨床研究会、日本サイコオンコロジー学会、日本がん看護学会など)との協力関係の樹立
 5)海外の関連学会(アメリカのNHO、APHN、ヨーロッパ緩和ケア会など)との交流を図るである。
 第一回日本緩和医療学会の時の基調講演「パリアティブ・メディシンの構築に向けて」で、私はこの学会が二つの中心を持った楕円として発展していくことを期待したいと述べた。この思いは14年を経た現在、ますます強くなっている。二つの中心とは「苦痛緩和のためのサイエンス」と「こころのこもった全人的ケア」である。多くの学会はその中心は一つで、楕円ではなくて円である。学会を立ち上げる時、「緩和医学会」にするか「緩和ケア学会」 にするか悩んだ。前者とすれば医師のみの感じがし、後者とするとナースが 主体に感じる。「緩和医療学会」とすれば、医師、ナース、その他のコメディカルスタッフが協力して、患者、家族のためになる学会となるであろうと考えたわけである。
 この二つはよいバランスを持って進 む必要がある。私の個人的な印象は、ここ数年「苦痛緩和のためのサイエンス」が強調され、「こころのこもった全人的ケア」がやや弱くなっているのではなかろうか。行動計画の第一に「ケア」という概念の学際的研究を挙げたのは、このような背景があったからである。いずれにしても患者、家族のためになることをいつも考える学会として進んでいきたいものである。

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