Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.49
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2010  49
Journal Club
手術不能肺がん患者の「最も苦痛なこと」は
既存の尺度でアセスメントできるか?
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野
宮下 光令

Tishelman C, Lovgren M, Broberger E, Hamberg K, Sprangers MA. Are the most distressing concerns of patients with inoperable lung cancer adequately assessed? A mixed-methods analysis. J Clin Oncol. 2010;28(11): 1942-9.

【目的】
 通常の患者立脚型アウトカム尺度(QOL尺度など)は最初から決まった項目について、その程度を評価するのが一般的である。しかし、患者の苦痛にはそれらの項目に含まれていないものもあるかもしれない。本研究では手術不能肺がん患者の「最も苦痛なこと」を診断時から1年間に6つの時点で調査し、それらが3つのQOL尺度や症状評価スケールでアセスメントできるかを検討した。
【方法】
 対象はスウェーデン・ストックフォルムの2つの大学病院の343人の手術不能肺がん患者である。患者に「いま、最も苦痛なことは何ですか?」という質問を行った。質的分析の結果20のカテゴリーが抽出された。身体的苦痛が7カテゴリー、生活に関する苦痛が9カテゴリー、医療システムに関連する苦痛が1カテゴリーであった。
【結果】
 患者から抽出された「最も苦痛なこと」は90%が身体的苦痛であった。6時点の中で一度は生活に関する苦痛を回答した患者は80%、医療システムに関連する苦痛を回答した患者は26%だった。身体的苦痛では倦怠感が最も多く、死亡前では疼痛が最も多かった。生活に関する苦痛では日常生活の制限と外見(outlook)が多く、死亡前では不眠が多かった。「最も苦痛なこと」は全体で55〜59%が3つの尺度でアセスメントできた。身体的苦痛は69〜77%アセスメントできたが、生活に関する苦痛は26〜46%であり、医療システムに関する苦痛は0〜7%しかアセスメントできなかった。
【結論】
 手術不能肺がん患者は今回用いた3つのスケールではアセスメントできない「いま、最も苦痛なこと」を有することが明らかになった。研究の目的や対象に応じて、慎重に評価尺度を選択するべきであり、臨床場面においてはその不足を補うようなアセスメントを行うべきである。
【コメント】
 がん医療におけるQOL尺度は症状およびそれによって引き起こされる生活上の困難をアセスメントすることに重点が置かれているものが多い。医療システムに関する苦痛には「治療や診療までの待ち時間」「通院に関すること」「診療の継続性」「情報の不足」などが含まれている。このような要素はQOL(Quality of Life)というよりQOC(Quality of Care)と言われているものに近い。終末期がん患者の苦痛をアセスメントするには症状だけでなくQuality of Careもアセスメントする必要があることが示された。Quality of Careの評価尺度は海外でも医療に対する満足度を測定する尺度などで散見されるが、一般的に用いられているものは殆どない。日本では患者立脚型のQOCを測定する尺度として「患者版Care Evaluation Scale」が作成され、筆者らによって2010年の日本緩和医療学会で発表されたところである。本尺度はこの論文で指摘されたような医療システムに関する評価項目が含まれている。今後のがん患者の生活の質を評価する際には、いわゆるQOL尺度だけでなく医療システムに対する評価も行っていく必要があるだろう。

Close