Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.48
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2010  48
パネルディスカッション1
精神・心理的支援の理論的背景を学ぶ
座長・報告  名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学
/名古屋市立大学病院 こころの医療センター  明智 龍男
座長  北里大学大学院医療系研究科 医療心理学  岩満 優美
 第15回日本緩和医療学会におきまして、北里大学の岩満優美先生と「精神・心理的支援の理論的背景を学ぶ」と題されたパネルディスカッションの座長を務めさせていただきました。本紙面をお借りして、パネルディスカッションに参加できなかった皆様のためにも当日の内容をご紹介させていただきたいと思います。
 本パネルディスカッションの目的は、がんの患者さんの精神症状に対して各種の心理療法的なアプローチが用いられますが、緩和医療の領域で用いられることが多い治療技法の背景に存在する理論的な枠組みと具体的な実践方法を紹介し、がんの患者さんの精神的支援の理論的背景を学ぶことにありました。
 当日はサイコオンコロジーおよび緩和医療の領域で実践を重ねておられる3人の先生方にご専門としておられます治療技法をご紹介していただき、実際の応用例や想定される治療機序などについても触れていただきました。
 まず最初に、我が国における認知行動療法の分野では若手ナンバーワンといっても過言ではない国立がん研究センター東病院精神腫瘍科の藤澤大介先生が「認知行動療法・問題解決療法ってなぁに?」というタイトルで、文字通り認知行動療法とその中の一つの治療法であります問題解決療法についてご紹介くださいました。中でも最近サイコオンコロジーや緩和医療の領域でも数々の研究により有効性が示されております問題解決療法について、1.問題解決に取り組もうという考えを整え、2.問題をはっきりさせ、3.解決策を考え、4.解決策を決め、それを、5.実行し、6.結果を評価する、という問題解決スキルを中心とした簡便な治療法であることを、実例を交えながらわかりやすく示してくださいました。次いで、愛知県がんセンター中央病院精神腫瘍診療科の小森康永先生が「ナラティヴ・セラピーの考え方と緩和ケア領域での実践」と題してお話しくださいました。ちなみに小森先生は、知る人ぞ知る、我が国におけるナラティブ・セラピーの第一人者であり、本治療法に関する多くの著作を翻訳され、日本にご紹介くださってきた中心人物です。小森先生は、ナラティブ・セラピーにおける問題の外在化(問題が問題なのであって、人間やその人間関係が問題なのではないというように表現されます)の重要性とその応用としての「うつ病を擬人化した人形劇」や治療的文書の活用の重要性という視点からディグニティセラピーの治療メカニズムとその実践についてご紹介くださいました。その他にも、愛知県がんセンターで取り組まれているナラティブ・セラピーを応用したユニークな取り組みの数々をご紹介くださいました。宣伝になってしまい恐縮ですが、本年9月24-25日に名古屋で開催されます日本サイコオンコロジー学会(http://www.asas.or.jp/goudou2010/index.html)では、小森先生の人形劇の実演を予定しておりますので興味がおありの方はぜひ足をお運びください。最後に、聖マリア大学の安藤満代先生が、ご自身が開発されました終末期の患者さんのための短期回想法についてご紹介くださいました。安藤先生の御講演では、短期回想法の理論的枠組みとしてエリクソンの発達課題などについても触れられながら、実際の短期回想法の実施方法なども含めてお話しくださいました。安藤先生が実践されておられます短期回想法は実際の終末期がんの患者さんの精神的苦悩に対しても無作為化比較試験にてその有用性が示されております(Ando M, et al. Efficacy of short-term life-review interviews on the spiritual well-being of terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage. 2010 Jun;39(6):993-1002.)。
 その後、パネラーの先生方の間で質疑応答をしていただきましたが、興味深いことに、理論は異なっていても共通の要素が浮き彫りになり、精神療法の基盤となるような部分の理解にも役立ちました。またフロアからは金城学院大学の柏木哲夫先生が豊富なご経験から終末期の患者さんの心理状態の変化について示唆に富むコメントをいただくこともできました。いずれにしても今回ご紹介くださった治療技法は緩和医療の領域で極めて実施可能性および有用性が高い治療技法ではないかと感じました。再度の紹介になって恐縮ですが、お3人とも先にご紹介させていただきました今年9月に開催されます日本サイコオンコロジー学会でも精神療法に関するシンポジウムなどにご参加いただく予定になっておりますので、がんの患者さんの心理的援助に関してもっと深く学んでみたいという方はぜひ名古屋まで足をお運びください。

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