Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.47
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2010  47
書評
「あんたは名医だ」
稲川利光 著
千葉県立保健医療大学健康科学部  安部 能成
 現実にはなかなか聞かれない本書のタイトルは、文中に出てくる患者さんの言葉である。もちろん、この言葉を向けられたのは著者に対してである。その場面が何処にあるのかは読んで頂いてのお楽しみであるが、そのような状況が当たり前に出てくるところが、本書の持ち味である。
 副題に、「PTとして、医師として、しなやかに向き合う命」とある。著者は、国立大学の農学部を卒業後、銀行への就職を断り、理学療法士の国家資格を取得。5年後に医学部に再入学して、学生結婚された後、医師国家資格を取得された。循環器内科から臨床研修を始められ、その後、リハビリ科へと進まれたユニークな経歴の持ち主である。
 本書のユニークさは目次のページに表れている。本書を手にされた読者諸氏には、そこに記されている著者の肉筆にご注目頂きたい。文字にそのお人柄が表れているであろう。その後は全て活字になってしまうので、ここが本書のポイントのひとつである。
 リハビリテーション技術的なことは、おおよそプロローグの8ページに書かれている。その最終章には「緩和ケアのリハビリ」が書かれており、この部分が最も技術論的でない。逆にいえば、文字通り、残りの136ページの序章となっており、本書の方向性を指し示すものとなっている。
 本書の構成は、第1章:暮らしと医療をしなやかにつなぐ、第2章:死を支える、第3章:僕が歩いてきた道、第4章:出会いに乾杯!、となっているから、第2章を中心に、緩和ケアにも関わりのあることが分かる。ちなみに、タイトルに取られた患者さんの言葉は第4章の冒頭部分にある。
 近代ホスピスの開拓者、故シシリー・ソンダース先生も看護師から臨床活動を始められ、ソーシャルワーカーを経た後、医師となられた。本書の著者も複数の専門職を経験されているので共通点がある。本書の場合、それ以上に著者の人生経験が臨床活動に色濃く反映されており、味わい深いものとなっている。
 冒頭にも述べたように、本書は決してリハビリテーション医学の専門技術書ではない。しかし、リハビリという枠組みを通して人をみており、人と人との出会いを何よりも大切にしている真摯な姿に読者は心を打たれるはずである。このことを踏まえ、緩和医療に従事する我々は技術的向上を心掛けるベきであろう。本書はそのような問題を提起している。


筒井書房、2008年6月16日発行、1,400円

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