Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.45
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2009  45
書評
「できれば晴れた日に」
板橋 繁 著
千葉県立保健医療大学  安部能成
 ユニークな闘病記である。この手の本は各種出ているが、本書の特色はその構成にある。御本人の日記に、御本人が後からコメントを書き加えている。さらに、主治医や治療する立場にあった医師たちの感想が、事後的に書き加えられている。このような工夫により、治療経過を複数の方向から照らすことになり、いわゆるアクティブ・パーセプション(色々な方向から見ることで対象物を立体的に認識する方法)によるドキュメンタリー映画を見ているかのような印象である。
 挑戦的でもある。本書の読者は、がん患者、がん患者を身近に持つ人、それに、がん治療に従事している職員ではないだろうか?がんと縁の薄い人が本書を手に取るとは思えないからである。その人たちに、自覚症状から告知、緩和ケア病棟に入院するまでの経過を述べている。しかし、淡々と事実を述べるのではない。心理的葛藤の吐露が語られるのだが、その立場は、がん患者本人、主治医、同僚の医師という極めて特殊な状況設定がなされている。その中で、それぞれの立場にある人たちに心の葛藤を綴っている。読者がどの立場で感情移入していくかについて、前述の構成を通して本書は問いかけてくる。
 がん治療に従事している医師らが、事細かに心情を綴る機会はあまりないのではないか?むしろ語らずに胸にしまっておくことで、冷静な判断力を保とうとしているように思われる。しかし、生身の人間であるが故、がんにならないとも限らない。それが、遠い話としてではなく、ごく身近な同僚に発生した。それどころか、他ならぬ自分に、その事態が起こった、という事件を刷りものとして、具現化したのが本書といえる。
 章立てごとのページ配分も変則的である。まず、タイトルの由来について、著者自ら語り起こす。続いて、1.再発、2.発症、3.手術、4.化学療法、と、ここまでが前半の150ページ。5.最後の戦い、だけで後半100ページを占める。全体が270ページもある本書は量的にも、また、価格設定も通常の新書の1.5倍である。しかし、その密度は濃く、ユニークな構成と相まって、3倍の価値があるといえよう。
 著者も医師、コメンテーターも医師で、それ以外の職種は登場しない。しかし、内容は医学のみにとどまらず、御家族のことが多い。がんと闘うか、撤退するかの問題も、どのような判断によってなされていくか、脂の乗り切った医師として、そして父親としての立場から語られていく。表題は、決して著者のことではなく、息子さんの手紙の一節を著者が選んだ。そのことが一層残された者の心に刺さる。その意味で本書を読み進めることは、がんを身近に置く者にとって明瞭な一つの挑戦であり、試金石となっている。


へるす出版新書007、2009年6月5日発行、1,260円

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