Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.44
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2009  44
Journal Club
終末期せん妄における家族の体験
Terminal delirium: family's experience.
難波 美貴
Miki Namba. Tatsuya Morita. Chizuru Imura. Emi Kiyohara. Sayuri Ishikawa. Kei Hirai. Palliative Medicine 2007; 21: 587-594


【目的】
 せん妄は終末期がん患者の85〜90%に生じ、30〜50%が回復する一方で、50〜70%は回復しないままに死亡にいたり、家族に多大なストレスをもたらしている。終末期においてせん妄が治療できない場合でも、患者・家族ができるだけ心穏やかに過ごせるための支援は重要である。本研究の目的は、がん患者の遺族の終末期せん妄に関する体験や感情、認識や医療者に期待される支援を明らかにし、家族へのケアの指針を得ることである。
【方法】
 対象は某ホスピスにて一定期間に死亡したがん患者の遺族250名のうち、終末期せん妄が認められた患者の遺族184名であり、そのうち承諾が得られた37名の遺族に半構造化面接を行い、遺族がせん妄を否定したものを除外した20名の面接内容を分析対象とした。得られたデータは質的方法により分析を行い、せん妄の体験、感情、認識、支援の各項目についてカテゴリー化した。
【結果】
 家族のせん妄の体験は、[患者は過去に実際にあったことやしていたことを言う・する][患者は排泄・口渇などの生理的欲求を訴える][おかしなことを言っていることに患者自身も気付く][患者は気がかりや希望を言う]など11カテゴリーが得られた。
 せん妄に対する感情は26カテゴリー得られた。[以前と違う姿を見るのがつらかった]など“つらさ”、[本人の魂が乖離していくような不安][心配で目が離せなかった]など“不安や心配”、 [何が起きているのか分からなかった]など“せん妄を認識することに対する困難感”、[どう対応していいか途方にくれた]など“せん妄に対応することへの困難感”が表出された。また、[精神的に追い詰めてしまった]といった“自責感”、さらに[迷惑をかける]など“せん妄に対する否定的な感情”、[長く生きてほしい反面早く安らかにというアンビバレントな気持ち]といった“揺れ動く感情”を抱いている家族もいた。一方、[ほっとした]などせん妄の体験に対しての肯定的な感情も表出された。 せん妄に対する認識は、[死が近づいている][あの世に逝く過程][現実の辛さから解放されている]など9カテゴリーが得られ、家族はせん妄の体験に対してこれまでの経験や知識などからその意味を解釈したり、家族なりの意味づけをしていた
 医療者に期待される支援は、[苦痛緩和][十分な説明][せん妄患者の主観的な世界を大切にした対応][“これまでと変わらないその人”として尊重した対応][患者の生活環境の整備][家族の身体的な介護負担の軽減][家族に対する精神的支援]などの13カテゴリーであった。
【考察】
 遺族の終末期せん妄に関する体験は個別性が大きく、各々の体験によって感情や認識には相違があり、必要とされる支援も様々であった。したがって、終末期せん妄のケアでは、患者・家族の個別性を踏まえたうえで、ニーズにあったケアを提供していくことが重要である。
【コメント】
 本研究では、終末期せん妄におけるケアのあり方は回復可能なせん妄におけるケアと異なる側面があること、また家族に対する認知教育的ケアが、せん妄に対する家族の苦悩を軽減することが示唆されている。これらの結果は、終末期せん妄が引き起こす家族の精神的苦痛を和らげるケアの一助となると考える。

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