Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.44
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2009  44
Journal Club
進行性がん患者と介護者における、せん妄のインパクトと苦痛の記憶
東京大学大学院医学系研究科 緩和ケア看護学  中野 貴美子
Eduardo Bruera, Shirley H. Bush, Jie Willey, Timotheos Paraskevopoulos, Zhijun Li, J. Lynn Palmer, Marlene Z. Cohen, Debra Sivesind, Ahmed Elsayem. Impact of Delirium and Recall on the Level of Distress in Patients With Advanced Cancer and Their Family Caregivers. Cancer.2009;115(9):2004-12.


【背景】
 せん妄は進行性がん患者で最も頻度が高い、精神疾患である。
【目的】
 本研究は、せん妄の経験を思い出すことが出来た患者の割合と、せん妄が患者・家族介護者・医療従事者に与えた苦痛の程度を探索的に検討する。
【方法】
 対象は、DSM-4-TRでせん妄と診断され、急性期のせん妄から完全に回復し、せん妄時に家族が付き添っていたがん患者である。患者はDelirium Experience Questionnaire(DEQ:4点満点)に回答した。さらに、患者・家族介護者は人口統計学因子と多くの異なるせん妄の症状に関連する苦痛に対して調査を行った。看護師と緩和ケア専門家が思い出しにより、せん妄の症状と苦痛について報告した。
【結果】
 急性期のせん妄から回復したがん患者、家族介護者99組がこの研究に参加した。せん妄の主な原因は、オピオイドの使用、感染、脳転移、高カルシウム血症、脱水であった。調査したがん患者の73名(74%)が、せん妄のときのエピソードを覚えており、その内、59名(81%)は、せん妄が苦痛であったと回答した(DEQの中央値4)。せん妄の苦痛に関しては、家族介護者(中央値3)は、患者(中央値2)よりせん妄の苦痛を高く回答した(P=0.004)。しかし、看護師や緩和ケア専門家のせん妄の苦痛の評価は低かった(中央値0)。
【結論】
 せん妄を経験した患者の多くが、せん妄のときのことを覚えており、患者・家族にとってはせん妄は苦痛な経験であったことが明らかになった。これらの苦痛を軽減するための適切な介入方法の検討が必要である。
【コメント】
 せん妄は意識障害であり、せん妄の記憶は患者にはあまりなく、患者本人は苦痛ではないと考えている医療者は少なくないだろう。本研究では、それらが全くの誤解であり、患者もせん妄の経験を非常に苦痛と認識していることが明らかになった。せん妄を有する患者に対して、その苦痛を軽減するための介入は現時点ではほとんど明らかにされておらず、今後の研究が必要である。

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