Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.44
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2009  44
市民公開講座
緩和医療のこころ
司会・報告  兵庫県立大学  内布 敦子
講師  金城学院大学学長,淀川キリスト教病院名誉ホスピス長  柏木 哲夫先生
 柏木先生の講義は、いつものように軽快なユーモアで始まりました。「最近ことばが気になる」という話から中川先生の「生命といのち」の話になり、「医学は、生命は診てきたが、いのちは診てこなかったのではないか」と問いかけられ、緩和医学は「生命といのち」の両方を診ていく医学であると述べられました。緩和医学、緩和医療、緩和ケアの候補の中から、緩和医療学会の学会名を決めるときの逸話も聞かせていただきました。
 緩和医療を実現するには感性が大切で、重度心身障害の息子を40年間介護した老夫婦に対するJALの客室乗務員のこころ遣い(富士山が見えるように窓際に置かれた息子の写真に気づいて、「窓際の方にもおひとつどうぞ」とジュースを差し出した)について紹介され、老夫婦の中にある息子の「いのち」の無限性についても話されました。感性には3つの要素(気づきと感動と行動)があって、それがそろって完成するとのことですが、気づいて感動してもなかなか行動を起こすところまでは到達しない場合が多い、しかし、何回も繰り返すと、自然に気持ちを込めて「それは、おつらいですね」と言うことができるようになるという話は、コミュニケーションの難しさを感じている参加者に勇気を与えたと思います。患者さんとの距離の取り方も、写真を見ながら先生の解説を聞くと「なるほど」と思います。また、患者さんとの間の壁を破るユーモアの力、そして患者さんが終末期に見せてくださるコーピングユーモアを、実例を挙げて紹介して頂きました。
 緩和医療の三要素としての・生命を診る・いのちを診る・家族を診る(私たち看護職は、「診る」を「看る」と言いますが)について説明され、症状のコントロールを十分行い、その人の存在、価値観を大切にして親切なもてなしを行うこと、そして家族の悲嘆に寄り添うことが大切であると述べられ、ケアの双方向性によって私たち医療者の成長がもたらされることに言及されました。そして、緩和医療の概念に双方の「人間の成長」という概念が将来含まれるようになるだろうと述べられました。
講演のはじめから終わりまで、私は聞きながら、笑ったり、真剣に聞き入ったり、涙があふれてきたりと大変忙しく感情が揺れ動きました。柏木先生の緩和医療、緩和ケアの技術は一つのアートだと思わずにはいられません。また先生の話術もアートです。私は先生のお話の間、2回涙があふれそうになって、そうしたら次の話で笑いのツボにはまり、司会の席にいて、おかげでようやっとなんとか涙をごまかすことができました。柏木先生、ご講演、ありがとうございました。

Close