Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.43
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2009  43
書評
「がん治療の常識・非常識」
田中秀一 著
千葉県立保健医療大学健康科学部 リハビリテーション学科  安部能成
 「やられた」というのが第一印象であった。著者は経済学部卒業の新聞記者であり、医学教育を受けた専門家ではない。しかし、サブタイトルにある「患者にとって最良の選択とは?」を行うために必要な、がん治療に関する妥当な情報を網羅的に集め、患者に理解可能な言葉で記している。このことは、単に患者にとって必要であるばかりでなく、患者を取り囲む家族、友人・知人にも必要な基礎知識となっているし、何より、臨床的に患者に接し、その意味で常に説明を求められる、がん治療に携わるすべての医療人にも必須の事柄となっている。
 第1章:がんは本当に治るようになったのか?、においては統計的観点からがんの治療成績を検討し、「治る」という意味の再検討を日常日本語で行っている。第2章:抗がん剤治療は有効か?、では、一般の治療薬と比較して、抗がん剤治療の持つ有効性の問題点を検討し、本当に自分にとってのメリットがあるかないかを考えるべきと指摘している。第3章:がん手術の落とし穴、においては、がん治療の王道ともいうべき外科手術の利点と欠点について、歴史的背景を踏まえて述べている。第4章:軽視されてきた放射線治療、では、日本において展開の遅れている放射線治療のメリットが述べられているが、副作用についての記述が少なく、特に晩発性障害についての記述が少ない点は気にかかる。第5章:免疫療法と代替療法はほとんど効果なし、では、治療効果という点から検討に入り、これらのものよりも禁煙の方が効果的、と結論付けている点では一部の専門家の意見を超えている。第6章:知られざるがん検診のデメリット、においては、がんの発見とその治療効果について、社会的・経済的観点から常識的判断を述べている。第7章:緩和ケアという「選択」、は、特に本学会会員の関心を呼ぶ項目であろう。冒頭でWHOの2002年の定義から出発しているのは良い点である。しかし、全体的にターミナルケアとしての色彩が強くなっており、内容的にはWHOの1992年の定義に沿ってしまっているような印象を受けた。第8章:がんとどう向き合うか?においては、がん治療という常識を超え、限りある人生には必ず終りが来るのであるから、がん治療の問題を通してそのことまで検討すべき、と記されているのは、医療を超えた、人生の常識とすべき、という指摘であろう。
 全体を通して、多くの専門家に取材され、一般論から具体的な事実にまで目配りされた良書といえる。マスコミの得意な「がん難民」の実態を明らかにしている点には感心させられた。ところが、がん治療において重要な看護やリハビリは、残念ながら常識化されていないためか、記述がない。いずれにせよ220ページの新書版に参考文献から索引まで付された本書は、がん治療に関する著述についても「常識・非常識」の再検討を迫るものとなっている。治癒的、緩和ケア的、いずれの立場からも、がん治療を考える際の必読書となり得るものとして推薦する価値のある一冊となっている。


ブルーバックスB1597、2008年、講談社刊
新書版220ページ、860円

Close