Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.43
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2009  43
巻頭言
今、改めて想うこと
帝京大学医学部 内科学講座 緩和医療科  有賀悦子
 桜の蕾が、急に膨らみ始め、黄砂が舞っています。この原稿を書いているのは、3月も終わりにさしかかった頃です。
 緩和ケアに携わっている者にとって、桜の頃の思い出は、他の季節とは比べものにならないほど多いのではないでしょうか。
 木枯らしの頃、できれば桜の頃に死にたいと涙した患者さん、頚椎転移で動けない方をベットごと桜の木の下まで研修医と運んだこと、来日された故シシリーソンダース先生は遅咲きの桜を京で楽しまれたと聞いたこと、そして、この2009年の桜を、様々の思いで眺められたのではないかと思います。
 がん対策基本法のもと、社会のうねりの真っただ中に、緩和ケアはあります。5年ほど前、雑誌記者さんに、早期からの緩和ケアというコンセプトを話したことがありましたが、もうひとつ理解してもらえなかったことを思い出しますと、近年、実に急速な変化をとげていると感じます。
 10年間で全がん診療医に対する研修を完了させることとして、全国で緩和ケア研修会が開催され始めました。300名を超す暫定指導医、認定研修施設が選ばれ、この秋には緩和医療専門医の試験が準備されています。また、日本緩和医療薬学会でも、緩和薬物療法認定薬剤師の募集が始まります。新たな疼痛ガイドラインが作成過程にあり、がん集学的治療財団とe-ラーニングの計画が進んでいます。
 私自身、ここ数年間はがん治療施設において、早期からの緩和医療の導入に携わってきました。この急流の中にいて、時に疲れ、空を見上げた時、ふとケアの心を忘れないで、今、自分はいるだろうかと自問することがあります。
 患者さんが私たちに託してくれた経験や知恵を、目の前の患者さんに生かしているだろうか、蓄えた知識を若い人たちに伝えられているだろうか、学会の一輪として最善を尽くしているだろうか、そして、故シシリーソンダース先生が来日し、架けてくださった橋をさらに伸ばすことができているのだろうか。
 桜を想いながら、省みているこの頃です。どのような流れに身をおいたとしても、原点を忘れないでいたい‥と。

 皆様の支えがあって、学会はこのうねりの中、社会の役割を果たしていっています。心から感謝申し上げると同時に、引き続き、共に育ててくださいますようお力添えのほどを何卒、よろしくお願い申し上げます。

蕾の頃によせて

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