Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.40
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2008  40
Current Insight
パラレルケア
聖路加国際病院緩和ケア科 林 章敏
 昨年JPAPの海外研修でオーストラリアの緩和ケア学会に参加した帰り、シドニー大学の緩和医療学教授であるDr. Lickisにお会いする機会を得た。そのときに緩和ケアのあり方として、「パラレルケア」の考え方が良いのではないかとおっしゃったのがとても印象に残っている。
 最近のがん治療の中には、比較的副作用が少ないものが見られるようになってきた。乳がんや前立腺がんに対するホルモン療法などは、患者はほとんど苦痛に感じることなく継続することが出来る。そうであれば、出来るだけ長く治療を続けたいと思う人が増えるのも当然だと思う。また、人間本来の持つ、生きることへの思いを強く持ち続ける人もいる。そのような方々には、治療をあきらめることなく最期まで希望を支えつつ、がんによる苦痛に対しては死の受容への援助も含めた緩和医療で対応していくのが良いと思う。
 一方、苦痛を伴うがん治療であれば、途中で中止し苦痛無く過ごすことを希望する人もいる。また、限られた時間を治療のためだけに費やすのではなく、家族との時間を大切にしたり、やり残したことを仕上げたいと思う人もいる。静かに過ごしたいと思う人もいるだろう。そのような方の場合は、がん治療を適切な時期に中止し、緩和ケアに移行する方が良い。
 すなわち、緩和医療はいずれ誰しも全面的に移行するべきものではなく、患者さんの持つ疾病の特性や治療の適応や副作用、人生観や死生観によってもその治療の中に占める比率は変わりうるべきものではないかと思う。そして、その関わりは末期になってからではなく、がん治療の初期から関わることが大事だと考える。
そう考えるときに、従来のシームレスな緩和医療への移行を強調するのではなく、がん治療と緩和ケアがパラレルに行われうる状況を作ることが大切なのだと思うようになった。
 その人のいのちを支える緩和医療、それを表すのが、「パラレルケア」の考え方である。今後の緩和医療のあるべき姿を示している言葉と思われてならない。

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