Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.40
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2008  40
シンポジウム9

スピリチュアルペイン・精神的苦悩:その理解と対応

座長・報告 東京大学大学院医学系研究科
緩和ケア看護学 河 正子
座長・報告 東京医科歯科大学大学院
心療・緩和医療学分野 松島英介
 本シンポジウムは、各演者がスピリチュアルペインや精神的苦悩の定義について持論を展開することを意図するものではなかった。それぞれの考え方がありつつも、「終末期がん患者のQOL向上」を共通の目標とする研究グループに参加して行われた研究結果と課題を中心に、発表いただいた。テーマは「日本人にとっての望ましい死―終末期がん患者のQOLとスピリチュアリティ」(宮下)、「終末期がん患者のスピリチュアルペイン評価法に関する研究―スピリチュアルペイン評価法の実施可能性」(田村)、「スピリチュアルケアワークショップの教育効果」(村田)、「終末期がん患者へのspiritual well-being 向上のための短期回想療法について」(安藤)であった。発表後、会場からの質問・意見を受けて総合討論を進めた。多くの質疑、意見交換があったが以下に一部を紹介させていただく。
研究に関する討論のひとつは、終末期のQOL/望ましい死の構成要素を、個別的な考えを尊重する緩和ケアの場で、達成すべき状態として全ての人のケア目標にしてよいのかということであった。会場と演者らの意見交換をとおして、個別性の尊重、患者自身が望ましい死を見出していくプロセスがもちろん重要であるが、ケアの手がかりとして共通性を示すことにも意義があろうとの方向が示された。また、会話記録を録音することの是非について討論があった。演者から「調査研究としては録音の必要があったが、緊張を生むなどの課題があり、患者さんの意向を確認することが重要」「メモや録音をすることで聞く力が鈍るおそれがある」「結局ケアにつなげられるのは記憶に残っていることだけであろう」などの発言があった。
ケアに関することでは、働きかけにどうしても答えてくれない患者、病状が伝えられていない患者など、困難な状況での対応について質問があった。演者から「言語化できない気持ちに関わり、そのときにその人と一緒に苦しむこともケアであろう」「ただ単にそばにいるのではなく相手の苦しみに意識を向ける訓練、待つという訓練が必要である」などの助言があった。
演者から座長の松島に、今回発表された研究でも使用されたツールの1つである「FACIT-Sp日本語版」を開発した視点からのコメントが求められた。松島から、身体的苦痛の緩和がある程度達成されても精神的苦悩の領域には対処ができていない状況があること、特に日本人のおよそ3分の2が亡くなる中小の病院ではケアにあたる人たちが困難を強く感じていること、ケアへのきっかけ、手がかりになることを願ってFACIT-Sp日本語版開発に取り組んだことが語られた。
基本的な事項としてスピリチュアルペインとは一体何なのかという質問が会場からあり、各演者から個人の考えが示された。
以上の論議を受けて、様々の考え方が存在し1つの答えが出せるものではないが研究の成果を重ね、臨床と意見を交換し、ケアの向上を目指す努力を続けていくことを松島が呼びかけて、セッションを終了した。
なお、最初から会場に参加されたBrown 先生とChochinov先生が、シンポジストの努力への敬意、各研究への賛辞といくつかのコメントを示してくださり、このテーマへの取り組みを励ましてくださったことに心より感謝申し上げたい。

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