Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.38
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2008  38
Current Insight
がん患者の補完代替医療の利用に影響を与える心理・行動的メカニズムに関する研究
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター/医学系研究科/人間科学研究科 平井 啓
出典:Psychological and behavioral mechanisms influencing the use of complementary and alternative medicine (CAM) in cancer patients. Annals of Oncology 2008 Jan;19(1):49-55.

 近年、がん患者さんの補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine; CAM)は非常に注目を集めている。がん患者の補完代替医療の実態について、2001年から2004年までの厚生労働省の「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班(兵頭班)ではじめて全国の3,100人のがん患者を対象とした実態調査が行われた。その結果、約45%がなんらかのCAMを利用していることが明らかとなった。そこでこの結果を受けて、がん患者さんがなぜCAMを利用するのか、そのメカニズムを明らかにするために調査研究を行った。
 この研究では、がん患者さんのCAM利用を一つの行動としてとらえ、その行動を起こさせる意思決定、その行動を維持させる要因を明らかにするために、汎理論モデル(Trans-theoretical Model; TTM)と計画的行動理論(Theory of Planned Behavior; TPB)と呼ばれる2つの応用行動理論を用いた。このモデルでは、CAMの利用を、「CAMの利用に関して全く関心がない」前熟考期、「CAMの利用に関心はあるが、まだ利用していない」熟考期、「CAMの利用について準備をしている」準備期、「CAMを利用している」実行期、「CAMの利用を継続している」維持期の5つのステージにわけて、そのステージが、CAMに対するメリットとデメリット、家族や医療者からの影響、コントロール感などの要因から説明されることを想定した。
 日本の3つの地域のがん専門病院のがん患者1100人を対象に、質問紙調査を実施し、521名の患者から有効な回答を得た。このうち、17%患者が前熟考期、43%の患者が熟考期、6%の患者が準備期、14%の患者が実行期、20%の患者が維持期であった。この結果から、「興味はあるが、実際にはまだ利用していない」という潜在的CAM利用者が多数いることが明らかとなった。また、構造方程式モデル分析を行い、患者の背景要因や、メリット(Pros)、デメリット(Cons)、自己効力感、家族の期待、医療者の規範、心理的苦痛とCAM利用のステージの関係を検討したところ、最も影響が強かったのは、「家族の期待」であった。またメリット(Pros)の認識が高いと、CAM利用のステージが高く、デメリット(Cons)の認識が高いと、CAM利用のステージが低い傾向があった。心理的苦痛の高さはCAMの利用に大きな影響を与えていなかった。
 以上のことから、CAMの利用については態度要因が強く影響している一方で、心理的苦痛のような情緒的要因はあまり関係していないことが明らかとなった。よって、患者、家族の持つ態度へ最も影響を与えると考えられるCAMに関する情報提供のあり方について検討し、体系を整備していく必要がある。そのために現在の研究班では、信頼できる情報をつくるための研究の継続や、ホームページや患者向けガイドブックなどのメディアを通じた情報提供活動を行っている。

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