Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.36
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2007  36
Current Insight
終末期がん患者のQuality of Life(望ましい死のあり方)について
東京大学成人看護学/緩和ケア看護学  宮下光令
 緩和医療の目標は患者の終末期のQuality of Lifeを可能な限り高め、その人にとっての望ましい死を実現することにあります。終末期患者のQuality of Lifeおよび望ましい死については「Good Death」という語を用いて、2000年頃から欧米を中心として盛んに研究されるようになりました。そこで我々は日本人にとっての望ましい死とは何かという課題に取り組んで参りました。終末期がん患者・家族・医療者63人への質的研究から取り組み、そこでわが国の終末期がん患者におけるQuality of Lifeの要素を確定しました。次のステップとして、私たちは全国の2548人の一般市民および513人の緩和ケア病棟の遺族を対象とした量的研究を行いました。量的研究の結果、日本人における望ましい死は、多くの人が共通して望む事柄として「身体的・心理的なつらさが和らげられている」「望んだ場所で過ごす」「希望や楽しみがある」「医師や看護師を信頼できる」「家族や他人の負担にならない」「家族や友人とよい関係でいる」「自立している」「落ち着いた環境で過ごす」「人として大切にされる」「人生を全うしたと感じる」という10の概念と、人によって重要さは異なるが大切なこととして「出来るだけの治療を受ける」「自然なかたちで過ごす」「伝えたいことを伝えておける」「先々のことを自分で決められる」「病気や死を意識しないで過ごす」「他人に弱った姿をみせない」「生きていることに価値を感じられる」「信仰に支えられている」の8の概念の集約することができました。多くの概念は海外と同様の傾向にありましたが、一部においてはわが国の特徴を見出すことができました。緩和医療に携わる方々は上記に挙げたような単なる身体的苦痛の緩和だけでなく、心理的、社会的、スピリチュアルな要素も含んだ全人的ケアに日々ご尽力されていると思われます。この調査結果は今更という感もありますが、わが国の緩和医療・ホスピスケアが目標としてきたことを数値的に明確化したという意義があると考えております。当然ながら数字にすることが全てではございませんし、日々の臨床での努力の結果でわが国の緩和医療が発展してきたのは明らかです。しかし、緩和医療が医学の中で認められていくためには、大切にしなくてはならないナラティブな要素を保持したまま、説得力のあるデータを出して行くことも同時に必要なことだと思っています。私たちの研究グループでは、現在、この終末期のQuality of Life(望ましい死)が現状においてどれくらい実現されているか、実現を阻んでいるバリアは何かを明らかにするために、患者や遺族を対象とした調査票の開発を行い、また、実際に患者や遺族に対する調査を計画・実施しております。全ての緩和ケアの対象となる患者さんにとって、可能な限りのQuality of Lifeが保たれ、望ましい死が実現される社会を目指してこのような研究を実施しております。現在までの研究の詳細につきましては、以下の参考文献をご参照いただければ幸いです。末筆になりますが、一連のこの研究にご協力いただいた方々に感謝するとともに、今後のご支援をよろしくお願い申し上げます。

参考文献
1. Hirai K, Miyashita M, Morita T, Sanjo M, Uchitomi Y. Good death in Japanese cancer care: A qualitative study. J Pain Symptom Manage. 2006; 31(2): 140-7.
2. Miyashita M, Sanjo M, Morita T, Hirai K, Uchitomi Y. Good death in cancer care: A nationwide quantitative study. Ann Oncol. 2007; 18; 1090-7.

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