Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.36
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2007  36
臨時企画 パネルディスカッション
終末期におけるがん緩和医療のあり方を考える −標準化と多様化の狭間で−
終末期医療における法と対話
−対話が医療を拓く−
法政大学法科大学院  中村芳彦
 終末期医療の問題には、法の存在や要求が大きく陰を落としている。法は、規範として、一定の要件を定め、問題の標準化やエビデンスを要求し、責任の有無を画一的あるいは類型的に判定しようとする。
 しかし、終末期医療は、個人の価値観、家族をめぐる状況、病状の進行の程度、心の準備など、すべて個別状況依存的で、関係のあり方も時々に変化していく特性を持つ。そういう場面では、法やガイドラインで、「画一的なルール」「法的責任を問われない指針」を定め、これを基準として一律に決めるという発想から、患者・家族・医療者で、治療方針や治療停止などをめぐる多様なニーズを、対話過程の中で、関係調整を試みるプロセスそのものに価値を見出す思考に転換し、その内容や結果を、法の限界の問題として、法的対応のあり方にも取り込んでいく仕組みが必要である。
 それは一人の患者の生と死を見つめ、そこから生じる様々な想いに、他者がどう関わるか、そのプロセスを共有し、痛みや悲嘆を分かち合うことで、今をどう乗り越えていくかを問い直していく試みでもある。
 このことは、理解と納得による場作りを志向することを通じて、医療現場を、医療者の法的責任を問う場になることを回避し、合わせて、そもそも終末期医療の場を広く刑事責任の対象としている日本固有の問題性を明らかにしていくことにもつながる課題でもある。
 そこでは、紛争対応から臨床経過の対話構築という質的転換が求められていることを意味している。そして、そのためには、医療者が、それぞれ関係調整者(メディエーター)としての役割が求められる。すなわち、コンテクストの固有性と状況依存性を重視し、問題を分析し、個人の価値観を尊重しつつ、関係調整するプロセスを重視するメディエーション(Mediation)の考え方を医療現場で活用していくことが有効である。

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