Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.36
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2007  36
臨時企画 パネルディスカッション
終末期におけるがん緩和医療のあり方を考える −標準化と多様化の狭間で−
法の限界とがん
医療における多様なニーズ
東京大学医科学研究所  上 昌広
 私は終末期医療に関する規範形成に影響を与える因子として、法律、ガイドライン、世論、マスメディア、判例について具体例を挙げながら取り上げた。民主主義社会では、多種多様な意見が、がダイナミックに影響し合って、妥協や弁証法的発展を遂げながら集約されていく。
 医療者は終末期医療の規範形成における法律やガイドラインの役割に大きな期待を寄せているように感じるが、それらの限界や問題点についても認識すべきである。たとえば、福島県立大野病院事件では異状死の届け出義務違反で産科医師が逮捕・立件されたが、この問題の起源は94年に法医学会が医療関連死を異状死に含めたガイドライン作成までさかのぼる。法医学会関係者達は、このガイドラインが、将来、医師の刑事告訴からこの国の医療崩壊を引き起こすことになろうとは夢にも想像していなかっただろう。また、終末期医療のあり方に関しては、現在、超党派の議員立法の動きがあるようだが、その制定に際しては医療現場から出来るだけの意見を述べなければならない。なぜなら、超党派の議員立法は議会のチェックが掛かりにくく、十分な議論がなされないまま法制化されてしまう可能性があるからである。一旦作成された法律は、当事者の予期せぬ結果を招くことがある。
 このような法制化とは別に、医療の規範形成に世論が果たす役割は大きく、世論形成の主役はマスメディアであることを認識すべきであろう。選挙で選ばれる政治家は原理的に世論に敏感にならざるをえず、彼らの指示を受ける行政(厚生労働省)も直接的、間接的に世論に影響される。警察、検察、裁判官などの司法官僚といえども同様の傾向があることは想像に難くない。2006年度、産婦人科領域で発生した堀病院事件、大淀病院事件が不起訴に終わったことは、福島県立大野病院事件の際の国会質問、およびメディア報道が司法判断に影響したことを示唆するのではないだろうか。
 最後に、裁判の判例も規範形成に大きな影響を与えることを追加したい。現在、終末期医療問題に関して、川崎協同病院事件が係争中である。東京高裁の判決文では裁判長が終末期医療に刑事が介入することの問題点を指摘しており、この裁判には注目していきたい。

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