Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.35
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2007  35
学会印象記
コミュニケーション技能訓練法(CST)講習会を終えて
滋賀県立成人病センター緩和ケア科  堀 泰祐
 私はかつて乳腺外科医として「乳がんの告知」をどのように行うのかについて、悩んだことがあった。もちろんテキストや雑誌の特集などをもとに、理論的に学ぶのも大切であったが、実際にロールプレイを取り入れたCSTに参加したことが大きな刺激になった。その後、ロールプレイを取り入れたCSTには、すでに10回以上参加したことがあり、私自身がファシリテーターを努めたことも多い。
 コミュニケーション・スキルを学ぶためには、実際の現場で悩み、苦労することも大切であるが、より効果的に実際的な方法を身につけるためには、コミュニケーション理論を学ぶとともに、ロールプレイを通して自分や他の人のコミュニケーションを客観的にみて欠点を修正し、利点を伸ばしてゆくことが近道である。今回のCSTでは私が今まで参加したものといくつかの点で違いがあった。
 多くのCSTでは、シナリオを一通り演じた後で、演じた各人が感想を述べ、ファシリテーター(スーパーバイザー)が講評するのが一般的であるように思う。今回のCSTでは、ロールプレイの途中でファシリテーターが会話を中断し、一つ一つの会話を再検討しながら進めるという方法が取られた。話の流れが中断するので、はじめは戸惑いもあったが、会話の中での言葉の意味や言葉のかけ方などについて検討するなかで、一つ一つの言葉の重要性を再認識できたと思う。また、今回は模擬患者を相手に参加者は「医師役」となるだけであり、参加者自らが患者役を務めることはなかった。ロールプレイに慣れた模擬患者相手であるため、場面設定が明確で会話がスムーズに進むという利点があった反面、患者役をすることで得られる「患者が実際にどのように感じるのか」という体験をすることができなかった。その代わり、医師役を演じていない他の参加者はオブザーバーとして会話を観察できるという利点もあった。今回は登場人物が医師と患者の2名だけであったが、他のCSTでは患者の家族、他の医療者などの登場人物も取り入れて、複雑な人間関係の中でロールプレイを行うことも多い。今回のCSTの趣旨とは異なるが、さまざまな立場の人物を経験し、その中の心理的力動を経験することができるのもロールプレイの醍醐味の一つである。
 今回のCSTはファシリテーターが2名ロールプレイを指導し、さらにスーパーバイザーが見守るという贅沢な環境でCSTを行うことができた。一つ一つの言葉選びから会話の進め方についてまで、細かく分析的に学べたのはとても良かったと思う。少し慣れてきた段階で、会話を長く流すこともできるようになり、全体の流れの中で何が重要なのかといったことも議論に上り始めたが、時間的に余裕がなかった。
 がんセンター近くの柏の葉公園の広々とした自然豊かな環境の中で、ファシリテーター、スーパーバイザーをはじめ多くの優秀なスタッフが見守る中、ロールプレイを通してコミュニケーション・スキルの基礎を学ぶことができたのは幸せであった。今回は非常に基礎的なプログラムであったが、今後さらにアドバンスト・コースが整備されることを望みたい。

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