Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.35
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2007  35
Journal Club
がんに関連した客観的変数は、早期乳がん患者の抑うつ症状には関連しない
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学  奥山 徹
Objective cancer-related variables are not associated with depressive symptoms in women treated for early-stage breast cancer.
Bardwell WA, Natarajan L, Dimsdale JE, Rock CL, Mortimer JE, Hollenbach K, Pierce JP.
J Clin Oncol. 2006 Jun 1;24(16):2420-7.

【背景】
 乳がんを患う女性は、その診断、治療、あるいは内分泌代謝の変化などの影響などによって、うつ病となるリスクが高い。
【目的】
 早期乳がん患者における抑うつ症状の予測因子について検討すること。
【対象と方法】
 乳がん患者を対象とした再発や生存率に対する栄養介入の効果を検討するための大規模な無作為化比較試験の、割り付け前ベースラインデータを利用した。その研究では、乳がん病期I-IIIAで、かつ初期治療後4年以内の患者が対象となっていた。
 患者の抑うつはCenter for Epidemiologic Studies-Depression Scale screening form (CES-Dsf)を用いて評価した。また身体的活動度、アルコールや食物の摂取量、ソーシャルサポート、性格傾向、感情表出の程度、敵意、ライフイベント、睡眠障害、身体症状などを、それぞれ標準化された方法で評価した。CES-Dsf 0.06点以上を臨床的抑うつ群と定義することで患者を高得点群・低得点群と2分し、それを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。独立変数は各変数グループに層別化して、まず癌に関連する変数、ついで個人的特徴、健康行動、身体機能・身体症状、心理社会的因子の順に投入した。
【結果】
 2595名の患者より有効データを得た。心理社会的因子を投入する以前には、若年、結婚していないこと、身体機能が乏しいこと、血管運動症状、消化管症状があることが有意な因子として残ったが、がんに関連する客観的変数は有意ではなかった。心理社会的因子を投入するとこれらの因子の有意差はなくなり、最終的に有意な変数であったのは、ストレスフルなライフイベント、楽観的ではないこと、陰性感情を表出することにアンビバレントであること、睡眠障害、社会機能が乏しいこと、であった。
【考察】
 早期乳がん患者における抑うつの危険因子としては、癌に関連する客観的な因子よりも、主観的な心理社会的因子が重要であることが示された。医療者は、乳がん患者の抑うつのリスクを考えるにあたっては、がんに関連する因子よりも、患者本人の主観的経験に焦点を当てて評価する必要がある。
【講評】
 本研究は、Engelらの身体的・心理社会学的疾患モデルや、近年のKendlerなどの一般人口におけるうつ病モデルなどを踏まえて計画されたものである。本研究は横断研究であり、本研究で見出された関連因子と抑うつとの因果関係に言及することはできない。しかし大規模サンプルであること、広範な身体的、心理社会学的因子を標準化された手法で評価していること、本稿では紹介していないが研究の質を高めるための様々な工夫を行うことなどによって、研究結果をより強固なものとしており、横断研究のひとつのモデルとして学ぶべき点は多い。

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