Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.35
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2007  35
Journal Club
成人がん患者におけるうつ病/うつ状態に対する治療効果の有用性:
系統的レビュー
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学
名古屋市立大学病院 こころの医療センター  明智龍男
The effectiveness of treatment for depression/depressive symptoms in adults with cancer: a systematic review
Williams S, et al. Br J Cancer 94: 372-390, 2006

【背景と目的】
 がん患者にみられる抑うつは頻度が高く、患者の苦痛症状そのものであるばかりではく、QOLの低下などに影響を及ぼすことが知られている。その一方で、がん患者の心理社会的ニードは看過されがちであることも示されている。
 これまでに、がん患者の経験するうつ状態に対する精神療法の有用性を検討した系統的レビューが3報、メタアナリシスが2報あり、概ねその有用性は支持されている。しかし、これら先行研究は、抑うつ症状とうつ病(事例化したうつ状態)を弁別して検討していないため、実際の臨床セッティングを考えた場合、これら結果を一般化するうえで問題がある。また、がん患者のうつ病に対する抗うつ薬の有用性を検討した系統的レビュー、メタアナリシスはない。
 以上のことから、今回、がん患者の抑うつ状態およびうつ病に対する精神療法および抗うつ薬の有用性を検討するための系統的レビューを行った。
【方法】
 成人のがん患者の抑うつ状態、うつ病に対する精神療法および抗うつ薬の有効性を検討した無作為比較試験を系統的にレビューした。
 電子検索に関しては、データベースとしてPubMed、CINAHL、Cochrane Library database、DARE、CDSR、CCTR、PsycARTICLESを用い、精神療法に関しては1995-2005年まで、薬物療法に関しては1960-2005年の文献を検討した(検索用語は省略)。
【結果】
 最終的に24の無作為化比較試験(薬物療法が6報、精神療法が18報)が抽出された。
 薬物療法:サンプルサイズの平均は、介入群、コントロール群で各々83、83であった。患者の平均年齢は50−61歳、3つの研究が多施設での臨床試験であった。割付の隠蔽化についての記載がみられたのは4報のみであった。5つの研究でアウトカム評価の盲検化が行われ、すべての研究で対象者への盲検化が行われていた。脱落率は0−53%であり、3つの研究でintention-to-treat分析を行ったとの記載がみられた。5つの研究が選択的セロトニン再取り込み阻害薬(3つがパロキセチン、2つがフルオキセチン:本邦未発売)を、1つがミアンセリンの有用性を検討していた。共介入としての精神療法や代替療法の施行を避ける、あるいはこれらの施行状況をモニタリングした研究報告はなかった。
 うつ病を対象にした場合、2報がパロキセチンの有用性を示していたが、フルオキセチンの有用性は示されなかった。抑うつ状態を対象にした場合、パロキセチン、フルオキセチン、ミアンセリンの有用性が示されていた。
 精神療法:サンプルサイズの平均は、介入群、コントロール群で各々61、52であった。患者の平均年齢は49−64歳、8つの研究が多施設での臨床試験であった。割付の隠蔽化についての記載がみられたのは4報のみであった。2つの試験でアウトカム評価の盲検化が行われていた。脱落率は0−41%であった。共介入としての精神療法の施行を避ける研究デザインを採用していた研究が2報みられた。一方、共介入としての薬物療法や代替療法の施行を避ける、あるいはこれらの施行状況をモニタリングした研究はなかった。
 4報がうつ病を対象にした報告であった。このうち認知行動療法/問題解決技法の有用性は示されなかったが、他の報告では、各々、カウンセリング、カウンセリング/リラグゼーション、ニードへの個別的介入の有用性が示されていた。
 抑うつ状態を対象に、認知行動療法の有用性を検討した報告では、7報が有用性を示し、2報では有用性が示されなかった。しかし有用性を示せなかった2つの研究はサンプル数が各々50、53と小さかった。抑うつ状態に対するカウンセリングの有用性は2報で示されており、その他、グループサポート、ピアサポート、ウエッブによるサポートグループ、看護師による介入、ニードへの介入による有用性が示されていた。
【考察】
 今回の系統的レビューから、がん患者のうつ病、うつ状態に対して抗うつ薬が有効であることが示唆された。一方、幾つかの研究で高い脱落率が報告されていたり、有害事象や耐容性の結果が報告されていない研究があるなど、現時点では、抗うつ薬の有用性を支持するには一定の留保が必要であると考えられた。
 精神療法に関しては、認知行動療法の有用性が示唆されるとともに、ソーシャルサポートの強化が有用である可能性が示唆された。
 一方、先行研究の方法論を検討した結果からは、これまでの研究の問題点として、サンプル数が少ない、交絡要因がコントロールされていない、などの点があげられた。その他の方法論的な問題点として、共介入のモニタリングがなされていない、単施設の研究が多い、緩和ケアの患者を対象とした研究がないことなども明らかになった。
 多くの研究で薬物療法、精神療法の有用性が示されているものの、これら問題点を念頭におき結果の解釈を行う必要があり、また今後は、これら方法論的な問題点を改善した、よりよい研究が必要であることが示唆された。さらに、精神療法の有用性と薬物療法の有用性の比較試験も今後必要であると考えられた。
【コメント】
 本研究は、うつ状態とうつ病(事例化したうつ状態)に区別して、薬物療法、精神療法の有用性を検討した系統的レビューである。しかし、実際にうつ病症例として扱われているものの多くは自己記入式の質問票のカットオフ値を用いてうつ病と推定された症例であり、臨床的には、厳密な意味でうつ病ではない可能性が問題点としてあげられる。一方、うつ病に対しても精神療法が有用であることを示したはじめての系統的レビューであり、これは今後のがん患者のうつ病治療のうえで貴重な知見である。精神療法の中では認知行動療法の有用性が示唆されているが、多くの介入が多彩な内容を含めた複合的介入であるため、実地臨床に携わるものとしては、エッセンスとなる治療技法の同定なども今後の検討課題であると考えられた。

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