Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.34
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2007  34
Journal Club
日本における精神的苦悩(「スピリチュアルペイン」)の概念化
聖隷三方原病院ホスピス、名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学  赤澤輝和
京都ノートルダム女子大学人間文化学部  村田久行
聖隷三方原病院緩和支持治療科  森田達也
第3次対がん10か年総合戦略研究事業
「QOL向上のための各種患者支援プログラムの開発研究」班 「精神的苦悩に関する研究グループ」
Conceptualization of psycho-existential suffering by the Japanese Task Force: The first step of a nationwide project
Murata H & Morita T. Palliative and Supportive Care 4: 279-285, 2006

【背景と目的】
 精神的苦悩(いわゆる「スピリチュアルペイン」)の軽減は緩和ケア臨床家の最も重要な役割のひとつであるが、概念的枠組みが確立していないことはこの分野の研究を行う上で混乱につながる。本研究の主要目的は、全国計画の初期段階として概念的枠組みの開発過程を例証することである。
【方法】
 当該領域の研究者26名および多職種からなるレビューアー100名によるコンセンサス法を使用した。研究者は緩和ケア医6名、精神科医6名、看護師5名、ソーシャルワーカーまたは心理学者4名、哲学者2名、宗教家、社会学者、そして作業療法士から構成された。2日間にわたる討議に加え、引き続き電子メールによる討議を行い合意に達した。
【結果】
 日本における観察的研究、理論研究、および終末期のQOL(good death)に関する研究を統合することにより、本研究の出発点としての概念的枠組みを採用することに合意した。
 精神的苦悩を「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義し、精神的苦悩は人間の存在と意味から構成される本質的要素の欠如に起因すると仮定し、関係性(他者)、自律性(自立、将来のコントロール、自己継続性)、および、時間性(将来)に分類した。意味を感じられることと心の平穏は、精神的苦悩のアウトカムとして、我々の介入の一般的エンドポイントとして解釈できると考えられた。このモデルは、今後集中的に研究すべき7つのカテゴリーを抽出したが、それは、関係、コントロール、自己継続性、他者への負担、世代継承性、死の不安、および、希望である。
【考察】
 日本の多職種グループは、終末期がん患者の精神的苦悩研究を促進させるために、概念的枠組みについて合意を得た。このモデルは、今後の質的研究、サーベイランス、介入研究により改訂されるであろう。
【コメント】
 終末期がん患者の精神的苦悩は、頻度が高いのみならず、希死念慮、生きる意思の喪失、尊厳の喪失、鎮静を考慮する状態など、多岐にわたる問題に影響を及ぼすため、その緩和は極めて重要である。
 国際的には精神的苦悩の概念化に続いて、概念的枠組みに基づいた介入が有効な可能性が示唆されるようになったが、我が国においては、いまだ十分概念化されておらず、何を研究しているのかさえ明確でない場合が多い。現在、我々のグループでは、本報告の概念的枠組みに基づき複数の臨床研究が企画・進行しており、数年の間に、日本においても実証的な知見を基に患者の個別性を尊重するケア・治療のあり方について議論できるようになると考える。
 本グループは共同で研究を継続しようという方へのオープンな集まりです。「スピリチュアルペイン」の研究に関心をお持ちの方はメールにてご連絡ください(分担研究コーディネーター:聖隷三方原病院 森田達也 tmorita@sis.seirei.or.jp)。

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