Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.34
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2007  34
Journal Club
乳がん罹患後の自殺:
一般人口における乳がん罹患女性723810人を対象とした多国間研究
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学
名古屋市立大学病院こころの医療センター  明智龍男
Suicide after breast cancer: an international population-based study of 723810 women
Schairer C, et al
J Natl Cancer Inst 2006;98:1416-9

【背景と目的】
 米国においては、2001年の時点で、約2百万人の乳がん生存患者が存在している。乳がんと自殺に関しての研究は、スカンジナビアとカナダにおける小さな研究があるのみで、これら研究においては、乳がんに罹患すると、30-50%自殺の危険性が高くなることが報告されている。しかし、乳がん生存患者を対象として、5年以上の長期間にわたって自殺の危険性を検討した研究はほとんどなく、また米国人女性に関してのデータはない。
【方法】
 デンマーク、フィンランド、ノルウエー、スエーデン、米国の一般住民を対象とした16のがん登録を利用した。1953年1月1日から2001年12月31日の間に乳がんと診断された患者で、少なくとも1年間は生存していた患者723810人対象として、2002年に自殺の危険性を定量化した。自殺の危険性として、乳がん患者における、一般人口と比較したStandardized mortality ratio(SMR)とexcess absolute risk(EAR:[観察数-予測数]×10万人年)および自殺の割合を算出した。
【結果】
 総数836人の乳がん患者が自殺していた。SMRは1.37(95%信頼区間 1.28-1.47)、EARは4.1(10万人年あたり)であった。自殺の危険性は診断後いずれの時期においても一貫して高く、がん罹患後25年以上経過しても同様の結果であった。人種に関しての検討では、黒人女性における自殺率が最も高かった。また、がん診断時のがんの病期が進行した状態ほど、自殺率も高くなっていた。乳がん罹患後30年間における自殺の累積割合は0.20%であった。
【考察】
 本研究は、乳がん患者における自殺に関して、一般住民を対象としたこれまでで最も大規模な検討である。また米国の乳がん患者に関して、初めての報告である。今回の検討で、乳がん罹患後25年を経ても、一般人口に比べて、なお自殺の危険性が高いことが示された。また、診断時の乳がんが進行した病期であると、自殺の危険性が高くなることも示された。本研究には、うつ病やうつ状態に関するデータは含まれていないが、先行研究からは、乳がん罹患後に発現するうつ病をはじめとした心理的苦痛が、自殺の背景に存在することが推測された。
【コメント】
 自殺は発現頻度が低い現象であるため、がん患者における自殺率に関して検討を行うためには、極めて大規模なコホートが必要となる。本研究は、中でも乳がん患者に対象を限定して長期間における自殺率を検討した内外を通してはじめての知見である。自殺は稀な事象ではあっても、その与える衝撃は周囲の家族、医療スタッフを含めて極めて深刻である。ましてや自殺にいたる患者の苦痛は想像するにあまりある。本データは、今後、がん患者の自殺予防の方略を考えていくうえで極めて貴重な知見であると言える。

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