Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.33
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2006  33
学会印象記
社会保険神戸中央病院緩和ケア病棟開設10周年記念講演会
千葉県がんセンター整形外科  安部能成
 2006年9月9日土曜日の昼下がりに、神戸市北区のすずらんホールにて、社会保険神戸中央病院緩和ケア病棟開設10周年記念講演会が開かれた。1施設の開設記念行事なので内輪に済ませることも可能であろう。しかし、地域に開かれた病院として、緩和ケアの対象者となりうる市民対象の講演会を開催されたことは、一つの見識を示したものといえる。関係者の熱意を反映してか、200名を超える参加者を数えた。
冒頭、現在の緩和ケア科部長の岡田医師より、ご挨拶として10周年の歩みが披露された。本病棟は阪神淡路大震災のときに産声を上げ、全個室22床の規模で、全国で26番目のものであった。この10年間で延べ1,700名の方が利用され、平均在院日数は36日とのことであった。
 講演会は2部構成で、第一部は「尊厳死をめぐる慈悲と愛の問題」と題して、アミノ酸補給の高カロリー輸液の発明者として知られている、泉美治大阪大学名誉教授の発表があった。ご夫婦とも尊厳死協会のメンバーであり、ご自身の、35年間連れ添った奥様を昨年亡くされた経験を踏まえ、慈悲と愛について12項目に分けて、その特色を話された。結局、科学は統計の上に成立している。したがって、(1)統計の対象にならないものは科学にならない、(2)科学は集団の在り方を確率で予測するものである。そのように考えると、「たった一つの命」は科学の対象にならない。言い換えると、「固有の命」の世界は常に二者択一である。どの命も同一のもの、として把握するなら科学の対象となる。これは集団の世界であり、確率という科学的予測が成立する、と教授された。
 第二部は「在宅ホスピスケア」と題し、神戸市において緩和ケアの発展に尽くしておられる、関本雅子関本クリニック院長の発表があった。「がん」に限定されない在宅ホスピスの特徴、そこでの医療処置の考え方、最近4年間の在宅ホスピスの現状、281症例の経験に基づいて、点滴などの在宅ホスピスで可能な処置、及び、疼痛緩和を初めとする症状コントロール、最近4年間の入院理由で最も多いのは、介護の限界という予想外の状況であること、介護保険が40歳以上となり、末期がん患者が対象者に含まれるようになってもサービスの恩恵に与れない症例の多いこと。ご自身のクリニック開設3年時点での遺族アンケートの結果、入院・在宅ホスピスの問題点の比較検討、神戸では大学病院や成人病センターに緊急入院できない等、ターミナルケアにおける病診連携、主治医を中心としたサポート体制をとらないと混乱しがちなターミナルにおける診療・診療連携、そして、在宅ホスピス・緩和ケアの今後の課題について、話された。中でも「お金がないと、がんにはなれないね」という患者さんの声が多い、という話には考え込まされた。

Close