Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.33
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2006  33
Journal Club
Aripiprazole in the treatment of delirium
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学
名古屋市立大学病院 こころの医療センター
明智龍男
Aripiprazole in the treatment of delirium
Straker D. A, et al. Psychosomatics 47: 385-391, 2006

背景と目的
 せん妄に対する薬物療法としては、ハロペリドールやクロルプロマジンを中心とした定型抗精神病薬(第一世代の抗精神病薬)が中心であるが、近年、錐体外路系の副作用が少ないことが報告されている第二世代の抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン、オランザピン等)の使用頻度も高くなっている。一方では、第二世代の抗精神病薬も考慮した、せん妄治療のコンセンサスは未だに存在せず、これら第二世代の抗精神病薬のせん妄治療に関する報告も限られている。また、我々の知る限り、アリピプラゾールに関する報告は存在しない。
 アリピプラゾールは、米国FDAにより、統合失調症、双極性障害の躁状態および維持療法に対して承認されている薬物であるが、QTc間隔やプロラクチン、血糖値、脂質や体重に与える影響が少ないことが知られている。また、鎮静作用も弱く、コリン受容体に対する親和性も有していない。さらに、アリピプラゾールはドーパミンD2受容体の部分アゴニストであることから、本特徴は、せん妄における注意、集中力、睡眠覚醒リズムの改善に有用である可能性が示唆される。このように、アリピプラゾールは、せん妄の中でも活動低下型に対する治療に対する有用性が期待される。
方法
 我々は、精神科コンサルテーションリエゾンサービスに依頼された身体疾患を有したせん妄患者14名に対して、アリピプラゾールを用いて治療した。せん妄はDSM-IV-TRにより診断し、治療経過の評価は、Delirium Rating Scale-Revised-98 (DRS-R-98)およびClinical Global Impression scale (CGI)にて行った。
アリピプラゾールは、5-15mg/日の範囲で使用し、必要に応じて調整した。治療前後において、血糖値、QTc間隔、血圧、心拍数および必要に応じて脂質や体重等をチェックした。
結果
 アリピプラゾールで治療された14名の患者の平均年齢は、70.9(SD=11.3)歳、6例が男性で、アリピプラゾールの平均投与量は、8.9(SD=3.5)mgであった。4例の患者に対しては、治療開始数日の間において必要時ハロペリドールが併用投与された。治療開始後5日以内に7名(50%)の患者が、治療終結時には12名の患者が症状の改善(DRS-R-98スコアの50%以上の減少)をみた。CGIスコアも治療前後で有意な改善を認めた。
血糖値の上昇やQTc間隔の延長なども認めなかった。
考察
 アリピプラゾールはせん妄治療に有効であり、副作用発現の割合も低いことが示唆されたことより、今後せん妄治療の第一選択薬剤として考慮される価値があると考えられた。中でも、代謝疾患や心血管系の疾患を有した患者にとって有用であるかもしれない。
コメント
 アリピプラゾールは、ドーパミンD2受容体の部分アゴニストというユニークな薬理学的特性を有する新規の抗精神病薬であり、本邦でも本年使用可能となった。最大の特徴は、副作用の少なさであり、特に高齢あるいは身体合併症を有する統合失調症の患者などへの治療に期待されている。
 本報告は、14例に対するアリピプラゾールの使用経験の報告であり、決してエビデンスレベルが高いわけではないが、今後、わが国おいても、せん妄に対してアリピプラゾールを使用するうえでの参考になるものと思われる。
 実際には良質な臨床試験の結果を待つ必要があるが、超高齢者やがんに加えて複数の身体疾患を有した患者のせん妄治療に対して期待が持たれる薬剤である。

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