Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.33
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2006  33
一般演題 口演1
「End of Life」における対象理解/「End of Life」の段階的ケア
シンポジスト : 東京大学 成人看護学/緩和ケア看護学  宮下 光
   聖隷三方原病院   赤澤輝和
千葉県がんセンター 緩和医療センター  木村由美子
名古屋大学 医学部 保健学科 看護学専攻  安藤詳子
カレスアライアンス 天使病院 外科  中島信久
日本赤十字医療センター 緩和ケア科  茅根義和
座長・報告 : 国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター心療内科   所 昭宏
 本セッションは大会二日目、一般演題の中で、プログラム委員会で推薦を受けた優秀演題が口演形式で広く会員、参加者に提供された。会場は立ち見が出るほどの参加者、関係者のパワーにあふれ、それに負けない各演者のパワーが共鳴する内容であった。
第一題は、宮下光令先生(東京大学)らによる「わが国における終末期のQOL(2)終末期のQOLの概念化 一般集団・緩和ケア遺族を対象とした全国調査」。質的調査より導き出されたわが国独自の終末期QOLの60構成要素を用いて、大規模サンプルでの量的調査を行った。国民の多くが望み共通性の高い内容の「苦痛がないこと」、「望んだ場所で過ごす」、「家族との良い関係が保たれる」、「医療者との良い関係」など、18構成因子に集約された。一般集団と緩和ケア遺族とのQOLのニーズの差はなく、今後わが国の緩和医療の質を評価し、臨床レベルの均てん化に寄与する有意義な報告であった。
第二題は、赤澤輝和先生(聖隷三方原病院)らによる「緩和ケアにおける希死念慮をどのように理解すればよいのか?」。緩和ケア病棟新規入院患者での連続調査で、希死念慮の頻度は9.5%(軽度18.3%)、関連要因として「倦怠感」、「呼吸困難」、「抑うつ」が示された。また直接原因は、質的調査により、「家族や医療者などへの他者への負担」、「緩和されない身体的苦痛」、「絶望感」、「セルフコントロール感」など7カテゴリーに分類された。希死念慮患者への対応は、まず援助や関与の保証を行い、アプローチしやすい身体的苦痛苦悩の解放と併行して、精神的、実存的援助を行うことをお教えいただいた。
第三題は、木村由美子先生(千葉県がんセンター)らによる「緩和医療センターにおける患者・家族が療養場所の決定に影響する要因〜患者・家族が捉える病状と今後の希望に焦点をあてて〜」。在宅緩和医療が政策的に推進される中、緩和ケアセンターに入院した患者の在宅療養移行決定に関与する要因として、病院死亡した患者と比較し、「患者・家族がとらえる病状」、「患者・家族の強い希望」等であると報告した。病気や症状の心配への対応だけでなく、具体的にどのような生活が送りたいかという希望を十分汲み取り、症状を安定させ、自宅でみる家族の不安へ配慮し、再入院を保証することなど、がん在宅緩和医療の現状と課題を御指摘いただいた。
第4題は、安藤詳子先生(名古屋大学)らによる「大学病院における集学的癌治療から緩和ケアへのギアチェンジの問題点―看護師調査から」。大学病院勤務の看護師314名への質問紙調査により、緩和ケアへのギアチェンジの問題点として、1)医師の緩和ケアの考え方、2)患者の癌治療への過剰な期待感、3)インフォームド・コンセントの方法論の未熟さ、4)長期入院できないこと、5)看護師の臨床経験年数、6)病棟方針の有無が挙げられた。
今後の課題として、医療職種間の情報交換、連携の場の設定、インフォームド・コンセントの充実などの御示唆をいただいた。
 第5題は、中島信久先生(カレスアライアンス 天使病院)らによる「終末期がん患者に段階的にがん告知を進めることは、コミュニケーションの質の向上に寄与するか?―STAS日本語版(STAS-J)を用いた他者評価法による検討―」。がん終末期において、未告知、病名告知、病状告知、予後告知を段階的に進めることは、患者―家族―医療者間のコミュニケーションの質の向上に寄与する。特に予後告知をなしえなくても、病名告知から病状告知へ進むことができれば、質の高いケア展開ができる可能性を他者評価法であるSTAS-Jを用いて検証した意義は大きいと考えられた。
 第6題は、茅根義和先生(日本赤十字医療センター)らによる「Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版〜看取りのパス〜の開発」。LCP開発国のイギリスとわが国の文化の違い、がん緩和医療環境の違いを乗り越え、一般病棟での使用など日本のがん緩和医療環境に適合させた看取りのプロセスの標準化の開発をめざした、非常に精緻で根気のいる研究の御発表であった。LCP日本語版が将来、日常臨床に定着することを期待したい。
 最後に、私はこの6演題を拝聴し、現在の日本の緩和医療の重要な課題とそれに対する関係者のハイレベルで勇気ある果敢な取り組みに、心から感動を覚えた次第である。今後の臨床及び研究の発展・応用により、多くの癌患者に還元される事を切に期待したい。

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