Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.32
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2006  32
書評
ラッキーガール
著者 佐藤真海/集英社
千葉県がんセンター整形外科  安部能成
 
 スポーツ好きだが、平凡な高校生活まで終えた女性が、第一志望の大学生活を始めたところで、足首の痛みに襲われる。何と、診断は骨肉腫。その後、苦しく辛い化学療法、自分の肉体を切り取られる切断術を受ける。励ましてくれた同室者は亡くなったにもかかわらず、自分は、ようやく命を取り留めた。しかし、退院しても晴れない日々が続く。そうした中で、自ら求めた障害者スポーツセンターで、新たな目標を見つけたことで、復活を遂げていく。当初は、「不格好にしか歩けない」地上から離れ、昔親しんだ水泳からアプローチした。その開放感は、トンネルを抜ける力を与えた。その後、義足の不具合を直そうとしたことから、歩きを飛び越して「走れる」ことを発見し、運命が大きく変わっていく。義足は、歩くためのものではなく、走るためのもの出会ったのだった。その発見と驚きの延長線上に、アテネパラリンピック出場を果していく。
 僅か3年余の間に、かくも沢山の事件が連続するのか、という感慨とともに、これが当事者の声であることに気づかされる。そして、運命を切り開いていくのは、御本人の意志と、それを支える色々な人々との出合いの連続である。どうしても医療の職にあるものは、努力して学ぶほど自分の正しさを信じ込んでしまい、現実を目前にした時、反省を忘れがちである。筆者が本書に出会ったのは、学会の会場であった。佐藤真海さんはシンポジストとして、壇上から、骨軟部腫瘍の治療を受けた側から、医療者に対して注文を出しておられた。そのような、当事者の声に耳を傾けることは、緩和医療と言う立場に身を置く我々にも、学ぶべき点が多い。自戒を込めて述べさせて頂くと、特に対象者が亡くなられて直接声を聞くことがない終末期医療に於いては、そのような傾向になり易い。この点でも、本書は、瑞々しい感覚で、一つ一つの事件について、大切なアングルを描き出しており、一読の価値があると思われる。(B6判159ページ、1200円)

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