Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.32
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2006  32
巻頭言
地域をつつむ緩和医療
岡山大学 消化器・腫瘍外科学  田中紀章
 神戸で開催された第11回緩和医療学会総会には3,800名もの医療者の参加があり、緩和医療に対する関心の高まりを目の当たりにいたしました。これは、がん医療に人々が何を求めているのかということに対する確かな数字のあらわれだと思います。
 緩和医療とは、がんのような難しい病気の終末期の医療として、はじめホスピスという施設の中で始まりましたが、今では、がん治療の最初から、症状緩和を目的として、治癒を目指す治療法と併せて実施される医療と考えられています。さらに患者さまの「生きがい」を支える医療として、病院やホスピスといった施設の中だけではなく自宅でも受けられるべき医療と考えられるようになってきました。
 岡山県の長島にはハンセン氏病の療養所がありますが、神谷美恵子先生はここで「生きがい」の問題に取り組まれました。その後、このテーマはホスピスムーブメントという新しい医療を求める運動となり、いまや「生きがい」は、緩和ケアの中でひろく追求されています。
 本年4月1日の診療報酬の大幅な改訂のなかで、「在宅療養支援診療所」が新設され、「在宅ターミナルケア」が初めて本格的に保険診療の中で認められました。すでに全国各地で在宅緩和ケアチームが活動しており、全国でもこれを機に緩和医療のすそ野が病院から在宅へといっそう広がるものと期待されます。それだけに在宅緩和ケアを支える各種の活動がいっそう必要となりますが、来年の学術集会はその節目の年の開催として、在宅緩和ケアの確かな一歩を進めるものでなければなりません。
 このように、「生きがい」を支える緩和医療が広がりをみせる中で、科学技術としての緩和医療にも、また一段の進歩を期待したいものです。疼痛緩和のための薬剤開発には確かにめざましいものがありますが、他の症状緩和には残された課題が多々あります。例えば、がんの苦痛には疼痛以外にも食欲不振、やせ、倦怠感などがありますが、これらは殆んど未解決であり、科学的な究明が待たれています。
 岡山での総会は、患者さまの「生きがいを」支えるために、緩和医療を施設から在宅へと広げる目的で、基礎医学から、ケアにまつわる臨床医学、看護学、さらには人文・社会科学までを包括的に学び、論じる場にしたいと思います。そのためにも、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士、ソーシャルワーカーなど多様な背景をもった多くの学会員、さらに一般市民やボランティアまでが参加しやすい集会となるよう準備を進めています。
 私たちの社会は近年の経済成長、少子高齢化の中で従来の伝統的な多様な共同体を失ってきました。しかし、地域に広がる緩和医療、緩和ケアは、改めて、家族の絆、地域の絆を強め、地域を一つにつつみながら新しい共同体形成に向かって働こうとしています。
 第12回日本緩和医療学会総会は教育セミナー等を含めて平成19年6月21日、22日、23日の3日間にわたり、岡山コンベンションセンターおよびホテルグランヴィア岡山にて開催されます。この会場で私たちは地域に広がる緩和医療の大きなうねり、新しい波を見たいと願っています。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

Close