Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.30
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2006  30
書評
「死ぬ瞬間」をめぐる質疑応答
(原題:Questions and answers on death and dying by Elisabeth Keubler-Ross; 1974)
訳 鈴木 晶/中央公論新社
千葉県がんセンター整形外科  安部 能成
 2005年7月には、近代ホスピスの創設者にして緩和医療のパイオニアであったソンダース女史が亡くなられた。その前年の夏、死の研究者として並び立っておられたキューブラーロス女史が、10年近い闘病生活の後、他界されている。その女史のデビュー作である「死ぬ瞬間」について349にのぼる質問に対する解答集が本書である。また、今回、中公文庫に収められるにあたり、訳し下ろされたもので、30年前の熱い語り合いが、日本語で読めることになった。したがって、本書を通じて初めて「死ぬ瞬間」を知った読者諸氏には、問答集から遡る形で原本にあたる道が用意されている。同じ訳者が、「死ぬ瞬間」、「「死ぬ瞬間」と死後の生」、「死、それは成長の最終段階」、という一連の翻訳を手掛けておられ、原文の性質の理解を踏まえた、こなれた日本語で表現されたものを用意されている。
 本書の内容は、1.臨死患者、2.特殊なコミュニケーションの形、3.自殺と末期疾患、4.突然死、5.延命、6.患者を看取る場所はどこが望ましいか、7.遺された家族の問題、8.葬儀、9.家族とスタッフは自分の気持ちをどう扱うか、10.スタッフに関する他の問題、11.老齢、12.ユーモア、恐怖、信仰、希望に関する質問、13.個人的な質問、となっており、「死ぬ瞬間」で語られた死に際しての5つの過程が、決して教条的な問題ではなく、当時から200症例の経験に基づく「臨床の知」であったことが、本書に語られた質疑応答をによって明らかとなろう。ホスピス/緩和ケアの展開を見ている今日の日本において、30年前の先達の足跡を知ることは現在の自分の抱える課題を解決するヒントとなる。その意味で、本書は、その質問者に、医師、看護士をはじめ、作業療法士、理学療法士、ソーシャルワーカー、聖職者など対象範囲が広い。米国の社会、文化の持つ癖を捨象しても、なお人の死に際しての真実を読み取ることが可能であるのは、品現の持つ普遍性と、翻訳の労をとられた関係諸氏の努力の結果であると思われる。入門者から経験者まで、読んで得るもののある、推賞されるべき基本図書であると感じられた。

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